本記事では、環境調査団体 Environmental Investigation Agency(EIA)が公表した調査報告をもとに、Yahoo! Japan で販売されている鯨肉製品の実態、水銀汚染による健康リスク、国際法との関係、そして企業の環境責任について整理します。なお、本調査には Help Animals(筆者)も情報提供や調査協力という形で関与しています。
本記事の内容は、EIAが公表した日本語版調査報告書および公式英語記事に基づいて構成しており、筆者の推測や独自の解釈を加えたものではありません。記載している事実・数値・評価は、すべてEIAの一次資料に拠っています。
厚生労働省から出ている魚介類(クジラ類を含む)についての注意喚起
厚生労働省のページでは、魚介類(鯨類含む)に含まれる水銀(特にメチル水銀)の特徴と、妊婦などハイリスク群に対する注意喚起について説明しています。魚介類は栄養的に有益である一方で食物連鎖で水銀が蓄積しやすく、特定の種類・摂取量に注意が必要であることを示しています。
Yahoo! Japanが今も鯨肉を売り続けている理由
Yahoo! Japan は、日本で最も利用者数の多いオンライン・プラットフォームの一つです。検索、ニュース、ショッピング、決済など、日常生活のあらゆる場面で多くの人が無意識のうちに利用しています。
しかしその Yahoo! Japan のショッピングサイトが、2025年現在もクジラやイルカ由来の食品を数百点にわたり販売し続けていることは、あまり知られていません(*1)。
この問題は、単なる「捕鯨の是非」や「食文化の違い」を超えたものです。
消費者の健康、公衆衛生、国際法、そして企業の社会的責任(CSR・ESG)が交差する、極めて現代的な問題です。
Yahoo! Japanで何が売られているのか
環境調査団体 Environmental Investigation Agency(EIA)は、2025年に「クジラ」「鯨肉」といった検索語を用いて Yahoo! Japan ショッピングの調査を行い、963点の鯨類食品が販売されていることを確認しました(*2)。
販売されている製品には、ミンククジラ、イワシクジラ、ニタリクジラ、ナガスクジラなどの大型鯨類に加え、ゴンドウクジラ、ツチクジラ、オキゴンドウなどの小型鯨類(イルカ類を含む)が含まれています(*3)。
赤身肉やベーコンだけでなく、心臓、肝臓、腸、舌、腎臓などの内臓製品も多く、さらに「添加物不使用」をうたった犬や猫向けのペットフード・おやつとして販売されている例も確認されています(*4)。
多くの製品では、具体的な種名が明示されていないことも特徴です。消費者は、自分がどの種の鯨類を購入しているのかを十分に理解しないまま、商品を選んでいる可能性があります。
見過ごされてきた健康リスク ― 水銀汚染
EIA の調査で最も深刻なのは、鯨類製品に含まれる水銀濃度です。
EIA は2007年から2025年にかけて、Yahoo! Japan で購入した 66種類の鯨類製品を、日本国内の認定検査機関で分析しました(*5)。
その結果、66サンプルの平均水銀濃度は 2.67ppmであり、日本政府が定める食品中水銀濃度の暫定規制値 0.4ppm の約7倍に達していました(*6)。
さらに深刻なのは分布です。
- 66製品中41製品(62%)が規制値超過
- 16製品(24%)が規制値の10倍以上
- 最大で 19ppm という極めて高濃度の水銀が検出された製品もありました(*7)
水銀は強い神経毒であり、世界保健機関(WHO)は「少量であっても深刻な健康被害を引き起こす可能性がある」と警告しています。特に胎児や乳幼児の神経発達への影響が懸念されます(*8)。
この点で、問題は「捕鯨文化」ではなく、消費者が知らされないまま健康リスクを負わされている構造にあります。
捕鯨は本当に「合法」なのか ― 国際社会との断絶
国際的には、商業捕鯨は1986年以降、国際捕鯨委員会(IWC)によるモラトリアム(商業捕鯨禁止)が続いています。
日本は長年にわたり、この枠組みに異議申し立てや「調査捕鯨」を通じて反対してきましたが、2019年には IWC を脱退し、国際的な管理枠組みの外で商業捕鯨を再開しました(*9)。
2019年から2024年の間に、日本の商業捕鯨によって 約1,747頭の大型クジラが捕獲されています(*10)。
さらに2024年には、国際自然保護連合(IUCN)が「絶滅危惧種」に指定しているナガスクジラの捕獲枠拡大も進められました(*11)。
国際司法裁判所(ICJ)は2014年、日本の調査捕鯨が国際捕鯨取締条約(ICRW)に違反すると判断しています(*12)。
EIAは、日本の捕鯨政策と、それを支える商業流通が、国際法秩序とグローバル・ガバナンスを損なっていると指摘しています。
なぜYahoo! Japanだけが売り続けているのか
重要なのは、Yahoo! Japan だけが特別な立場にあるわけではないという点です。
過去10年以上の間に、
- Amazon Japan
- 楽天
- 日本の大手スーパーマーケット各社
は、相次いで鯨類製品の販売を中止してきました(*13)。
その結果、EIA は Yahoo! Japan が現在、日本最大級の鯨肉オンライン販売業者である可能性が高いと結論づけています(*14)。
LINEヤフーの環境宣言との矛盾
Yahoo! Japan は、LINEヤフー株式会社のグループ企業です。
LINEヤフーおよび主要株主であるソフトバンク、ネイバーはいずれも、生物多様性の保全や持続可能性への配慮を公式に掲げています(*15)。
LINEヤフーは、IUCNレッドリスト掲載種のオークション出品禁止や、環境保護プロジェクトへの支援も行っています(*16)。
しかしその一方で、鯨類製品の販売については、EIAから2010年以降複数回にわたる書簡が送付されているにもかかわらず、正式な回答は一切行われていません(*17)。
この状況は、環境配慮が実質を伴わない「ESGウォッシュ」であるとの批判を免れません。
クジラは「食料」以上の存在である
クジラは単なる水産資源ではありません。
近年の研究では、クジラが栄養塩を海洋表層に循環させる「生態系エンジニア」として、海洋生態系の生産性や炭素循環に重要な役割を果たしていることが明らかになっています(*18)。
気候変動、化学物質汚染、プラスチック汚染、混獲など、すでに多くの脅威にさらされている鯨類に対し、商業捕鯨とその流通がさらに圧力を加えていることは否定できません。
結論 ― 消費者と企業に突きつけられた問い
Yahoo! Japan による鯨類製品の販売は、
- 非人道的で持続不可能な捕獲を支え
- 消費者の健康リスクを拡大し
- 国際的な環境ガバナンスを損ない
- 自社が掲げる環境目標とも矛盾しています(*19)
この問題は、「捕鯨に賛成か反対か」という二項対立ではありません。
知らないうちに加担させられている消費者と、それを可能にしている巨大プラットフォームの責任が、いま問われています。
レポート
本記事の内容は、環境調査団体 Environmental Investigation Agency(EIA)が公表した調査報告書および公式記事に基づいています。
より詳しい調査方法、検査結果、国際法上の位置づけ、企業構造の詳細については、以下のEIA公式レポートをご覧ください。
LINEヤフーへの質問と回答、考察
・水銀を多く含む可能性が指摘されている鯨肉がYahoo!ショッピングで販売されていることについての質問と回答
参照リスト
*1〜*19
*1
Environmental Investigation Agency (EIA), Ethics Over Profits: Why Yahoo! Japan should stop selling whale and dolphin products, 日本語版報告書, 2025年6月, p.3
*2
同上, p.6
*3
同上, p.6
*4
同上, p.6
*5
同上, p.7
*6
同上, p.7
*7
同上, p.7
*8
WHO, Mercury and Health, 2017
https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/mercury-and-health
*9
EIA報告書, p.4
*10
同上, p.4
*11
同上, p.4
*12
International Court of Justice (2014), Whaling in the Antarctic
(EIA報告書 参考文献 p.12)
*13
BBC (2014), Guardian (2012)
(EIA報告書 参考文献 p.12)
*14
EIA報告書, p.6
*15
EIA報告書, p.8–9
*16
同上, p.9
*17
同上, p.9
*18
EIA報告書, p.5
*19
EIA報告書, p.11

