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太地町のイルカ猟と水族館への生体販売:契約書・輸出記録から見える実態

イルカ
目次

太地町のイルカ猟とは?

和歌山県太地町で行われているイルカ追い込み漁は、和歌山県太地町で長年行われてきた漁法です。海域で群れを囲い込み、湾内へ追い込んで捕獲する方法で、秋から春にかけてシーズンが続きます。
しかし、単なる「捕獲」にとどまらず、近年は 生体販売(水族館向け供給) との関係が国際的に大きな注目を集めています。

捕獲されたイルカの一部は食用にされるものの、一定割合は「生きたまま」選別され、国内外の水族館やイルカ施設へ販売されます。この商業的側面こそが、太地町イルカ猟の現代的な特徴であり、世界的議論の中心となっています。

太地町のイルカはどこへ行くのか?生体販売の役割

追い込み猟で捕獲されたイルカは、湾内で「選別」されます。
選別とは、

  • 体格
  • 年齢
  • 性格
  • 傷の有無
  • 訓練適性
    などを基準にし、水族館で飼育・ショーに適すると判断された個体を抽出する工程です。

生体選別数(推定)

公開資料による推定では、1シーズンに数百頭が捕獲され、そのうち生体選別されるのは 約10〜15%程度 と推定されています(2)。

生体販売の価格

NGO「World Animal Protection」などの調査によれば、価格は以下のように変動します(2)。

  • 生体個体(未訓練):約8,000 ドル前後
  • 訓練済み個体:40,000〜150,000 ドル前後

太地町では、イルカの食肉よりも、生体販売が主要な収入源となっている実態が報告されています。

国内水族館との関係:太地由来イルカは展示されているのか

日本の多くの国立・大規模水族館は、2015年に JAZA(日本動物園水族館協会)が太地由来イルカの調達を停止したことで、太地との直接取引を取りやめました(5)。

しかし、次のような構造が依然として残っています。

● ① JAZA非加盟施設

  • 地方の中小規模水族館
  • イルカショー施設
  • 民間の小規模マリンパーク

これらの施設は JAZA の規制に拘束されず、生体購入が可能です。

● ② 太地町立「くじらの博物館」などの地元施設

太地で捕獲されたイルカを直接収容する主要な施設であり、選別・訓練の拠点としても重要です。

● ③ 契約書・在庫台帳による買主の特定

Dolphin Project / LIA の情報公開請求により、

  • 売買契約書
  • 在庫台帳
  • 取引先リスト
    などの黒塗り内容が裁判で争われ、大阪高裁は「全面黒塗りは違法」と判断しました(1)。

これにより、今後「太地 → 国内のどの水族館」が明らかになる可能性が極めて高い状況にあります。

国際輸出:太地由来イルカはどの国に送られているのか

太地のイルカは、国内だけでなく 海外の水族館・イルカ施設にも大量に輸出されてきました。

● 輸出先(報告書ベース:17か国)

中国、タイ、UAE、フィリピン、韓国、トルコ、エジプト、イラン、サウジアラビア、バーレーン、ウクライナ、ジョージア、ロシア、ベトナム、メキシコ、チュニジア、パラオ
2

● CITES/税関記録との照合

CITES(ワシントン条約)のデータベースには、日本からの生体イルカの輸出記録が登録されています。
これを各国の受入数や報告書と突き合わせることで、太地由来イルカの国際供給網を裏付けることが可能です(6)。

公文書開示と裁判記録:イルカ流通をめぐる透明性

LIA と Dolphin Project が太地町に対して行った情報公開請求は、近年のイルカ問題の中でも重要な事件です。

● 開示された文書の内容

  • 売買契約書
  • 取引金額
  • 生体個体のID
  • 取引日
  • 相手先(買主)
  • 在庫管理台帳

● 大阪高裁の判断

2023年、
「黒塗りによる非開示は違法」
という判決が出され、太地町は再開示を命じられました(1)。

これは、太地イルカの流通を明らかにするうえで歴史的な判決であり、
国内水族館の購入履歴が明らかになる可能性が高まったことを意味します。

水族館ビジネスと倫理:イルカは「展示資源」なのか

イルカの生体販売と展示ビジネスの関係には、以下の課題が存在します。

● 商業化された「訓練・ショー」構造

訓練済みイルカは高額で取引され、水族館にとっては

  • 来客数
  • 収益
  • ショー演出
    の中心的存在です。

● 動物福祉基準とのギャップ

生態に合わない小規模プールで展示される例も多く、

  • 体調不良
  • ストレス行動
  • 社会構造の破壊
    などの問題が世界各地で報告されています(3)。

● 長距離輸送のリスク

国際輸送中の死亡例も確認されており、輸出国・輸入国双方で透明性が求められています。

現状の課題と改善への提言

本記事で明らかにした課題をふまえ、以下の改善策を提案します。

  1. 情報公開の徹底:契約書・台帳を黒塗りせず公開
  2. 水族館の調達基準を明確化:JAZA非加盟施設を含むガイドライン策定
  3. 国際モニタリングの強化:CITESデータの精緻化
  4. 福祉基準の統一:プール規模・訓練・飼育環境の最低基準
  5. 展示代替の促進:バーチャル展示や教育型施設の普及

まとめ:太地イルカ猟と水族館の関係をどう捉えるか

太地町のイルカ猟は、伝統漁の一面を持つ一方で、現代では 水族館ビジネスの供給源 という性質が強くなっています。
公文書開示や国際データを通じて可視化されつつある今、
私たちが「イルカがどこから来たのか」を知り、選び、議論することは以前より重要です。

本記事が、透明性ある野生動物管理と、水族館の未来を考えるための一助となれば幸いです。

補足:太地町におけるイルカ猟 ― 殺し方の変遷とその是非

太地町(和歌山県)は、伝統的にイルカ類を対象とした追い込み漁(イルカ猟)を行ってきた地域です。この漁法において、イルカの「と殺方法(殺し方)」はかつてから問題視されてきました。

下の写真にあるように首を刃物で切る方法が用いられ、死亡まで時間がかかる場合があったこともあります。
しかし2000年代以降、ある程度の改善が試みられてきました。

伝統的な方法とその問題点

従来、太地町のイルカ猟では長い槍(スピア)やフック(鉤状の道具)を使ってイルカを突く方法が主流でした。この方法は、出血が激しく、死亡までの時間が長くなるケースがあったと指摘されています。

ドキュメンタリー映画『ザ・コーヴ』などでも、この突刺による苦痛や流血の様子が強調され、国内外から批判を浴びました。

「改善」された方法:脊髄断絶(スパイナルトランセクション)方式

2008年ごろから、太地町では「脊髄断絶(spinal transection)」方式を導入したと報告されています。これは、イルカの頸部(首の後ろ)を精密に切断し、脊髄にダメージを与えて呼吸や運動を速やかに停止させる技術です。 (OPS Productions)(映像制作会社の報告)

具体的な改良点は以下の通りです:

  • 死亡時間の短縮
    魚類研究所と太地漁協が共同で行った報告によれば、脊髄断絶方式では、イルカが動かなくなり呼吸を止めるまでの時間(TTD=time to death)が大幅に短くなったとされています。 (OPS Productions) 例えば、リスイルカ(Risso’s dolphin)では最短5秒、平均約13〜14秒程度で死亡した例も報告されています。 (OPS Productions)
  • 出血の制御
    切断後に傷口には木製のくさび(ウェッジ)を打ち込むことで、出血をコントロールする工夫も導入されました。 (OPS Productions) この手法により、海への血の流出を減らすとともに、漁師の安全性を高める狙いもあります。 (OPS Productions)
  • 作業者の安全性
    脊髄断絶方式を用いることで、従来の長い槍を何度も突き刺す方法よりも作業者(漁師側)のリスクが減った、という報告があります。 (OPS Productions)

批判・懐疑の声

とはいえ、この「改善」が完全に動物福祉(イルカへの苦痛軽減)の観点で十分とみなされているわけではありません。

  • 死亡時間のばらつき
    一部の研究・映像記録によると、死亡までに数分かかるケースがあるとの報告もあります。 (SOSdelfines)
  • くさびによる内部血液保持
    出血を抑えるためにウェッジを打ち込む方法について、一部では「出血を見えにくくしているだけ」「血液が体内にたまって苦痛が続く可能性がある」との指摘があります。 (You Murderers)(活動団体の分析)
  • ヒトの“人目に見えない処理”
    解体作業を港の施設内など、一般から見えにくい場所で行うようになったという報告もあり、それによって透明性が低下しているという批判があります。

総論:改善はあったが論争は継続中

太地町におけるイルカ猟では、伝統的なスピア突きから、脊髄断絶方式への移行という「改善」が確かにみられます。この手法導入によって、死亡までの時間が短縮され、出血・作業者の安全などで一定の成果があったという主張があります。

しかし、動物福祉団体や研究者の間には、「真に苦痛を軽減できているか」「死亡までのばらつき」「手法の透明性」などに関して懐疑的な見方も根強く残っており、“改善=完全な解決”とは言い切れない状況です。

参考文献

  1. Iwasaki, T., & Kai, Y. (2010). Improved method of killing dolphins in the drive fishery in Taiji, Wakayama Prefecture. Fishery Research Institute of Far Seas Fisheries & Taiji Fishery Cooperative. (OPS Productions)
  2. Veterinary & Behavioral Analysis of Dolphin Killing Methods in Taiji (2011) — independent analysis. (You Murderers)
  3. JAZA(日本動物園水族館協会)に対する和歌山県の見解。(和歌山県公式サイト)
  4. U.S. Humane Slaughter Association レポート:Taiji の殺方法と改善主張に関する英語資料。
  5. 朝日新聞「太地町で小型鯨類の漁始まる」など最新の追い込み漁報道。(朝日新聞)

動画

この動画は、エルザ自然保護の会が制作したドキュメンタリーです。1999年に静岡県伊東市・富戸漁港近くで撮影された追い込み猟を中心に、日本各地で行われる水族館用・食肉用イルカの捕獲と殺害の実態を記録しています。

イルカが湾内に追い込まれて群れを分断され、水族館向けと食肉用に選別される過程、生きたままクレーンで吊り上げられる水揚げ方法や狭い入り江での殺害など、動物福祉上問題のある場面を通じて、その苦痛が大きい場面と動物福祉上の問題を告発しています。

こうした殺し方や水揚げ方法は現在は公式には禁止とされている一方で、2004年以降は報道が厳しく規制され、実態の検証が難しい状況にあることも指摘されています。イルカ猟の「真実の姿」を可視化することで、規制強化や廃止を社会に訴えることを目的としています。

この動画は、太地町などで行われるイルカ追い込み猟について、日本側が「背骨の一点を刺して瞬時に失神させ、人道的に殺している」と説明している方法と、実際の映像に映るイルカの大量出血や長時間にわたるもがき・苦悶の様子との矛盾を指摘しています。

頸椎への刺突が即時の無意識化や苦痛軽減につながっていない可能性を示し、湾内の海水が真っ赤に染まるほどの出血とイルカ同士が苦しむ姿を通して、「苦痛を最小化する人道的処理」という公式説明の正当性に強い疑問を投げかける内容となっています。

参照リスト

*(1) Dolphin Project, Redaction of Taiji Public Records Ruled Illegal, Dolphin Project, 2023–2024,
https://www.dolphinproject.com/blog/redaction-of-taiji-public-records-ruled-illegal/

  • 要約:太地町が黒塗りで隠した契約書・台帳の非開示は違法と判決。NGOによる情報公開請求が大きく前進。
  • 主要洞察:① 公文書の透明性問題 ② 取引履歴の開示可能性 ③ 太地行政と法廷の対立。

*(2) World Animal Protection, Deadly Connection: How the tourism industry profits from the Taiji dolphin hunts, 2024,
https://www.worldanimalprotection.ca/siteassets/reports-pdfs/16586_wap_deadlyconnection_taijidolphinhuntreport_feb24_fa_lr-ca-compressed.pdf

  • 要約:太地イルカ猟の商業構造、輸出国、選別割合、価格体系などを包括的に分析。
  • 主要洞察:① 生体選別の割合 ② 輸出先17か国 ③ 訓練個体の高額取引。

*(3) WDC, Whale & Dolphin Captivity Report 2025, 2025,
https://uk.whales.org/wp-content/uploads/sites/6/2025/09/whale-dolphin-captivity-report-2025-final.pdf

  • 要約:世界のイルカ飼育施設の現状を分析。日本の輸出台数や施設環境の問題も指摘。
  • 主要洞察:① 日本の輸出実数 ② 飼育環境のリスク ③ 国別の産業構造。

*(4) 毎日新聞, 太地町「黒塗り公文書」の違法性認める, 2023,
https://mainichi.jp/articles/20231017/ddl/k30/040/244000c

  • 要約:大阪高裁が太地町の黒塗り文書の全面非開示を違法と判断。
  • 主要洞察:① 自治体の情報発信責任 ② 透明性確保 ③ 市民のアクセス権。

*(5) 日本動物園水族館協会(JAZA), イルカ調達に関する方針, 2015

  • 要約:JAZAが太地産イルカの購入を禁止した方針の概要。
  • 主要洞察:① 調達ポリシーの転換 ② 国際批判への対応 ③ 非加盟館とのギャップ。

*(6) CITES, CITES Trade Database, 年次更新,
https://trade.cites.org

主要洞察:① 日本からの生体輸出記録 ② 受入国の特定 ③ 国際取引の透明性。

要約:国際取引データからイルカの輸出入の流れを把握可能。

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