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オレゴン国立霊長類研究センター(ONPRC)とは?事故・違反事例から見る霊長類実験の構造問題 

動物実験代替法(NAMs)に関する研究助成金・支援制度・アワードまとめ イメージ画像
目次

はじめに

米国オレゴン州にあるオレゴン国立霊長類研究センター(ONPRC)をめぐり、近年大きな転換点となり得る動きが生まれています。2026年2月、同センターを運営するオレゴン健康科学大学(OHSU)の理事会は、施設を霊長類のサンクチュアリ(保護区)へ転換する可能性について、米国立衛生研究所(NIH)と協議を開始することを全会一致で決議しました(*1)。

これは単なる一研究施設の問題にとどまらず、霊長類を用いた動物実験の科学的妥当性、倫理性、そして制度的構造を問い直す動きとして注目されています。本記事では、ONPRCをめぐる事実関係を整理したうえで、その背後にある構造的課題を穏やかに検討し、私たちが今後どのように情報を共有していくべきかを考えます。

ONPRCのこの動きについては、以下の記事で知りました。。こちらもぜひご覧ください。 
OHSU Board Votes to Consider Transitioning Oregon Primate Research Center to Sanctuary


ONPRCの概要と近年の問題点

ONPRCは、全米に7つある国立霊長類研究センターの一つで、報道によれば約4,000〜5,000頭の霊長類を飼育している大規模施設です(*2)。感染症、神経疾患、代謝疾患、妊娠・発達研究など幅広い分野で霊長類が用いられてきました(*3)。オレゴン国立霊長類研究センター(ONPRC)の概要詳細はこちらをご覧ください。

一方で、同センターは動物福祉法(AWA)違反件数の多さでも注目されてきました。報道によれば、2014年から2022年にかけて、同種施設の中で最も多い違反件数が確認されています(*4)。

具体例としては、以下のような事故が報告されています。

  • ケージごと洗浄機に入れられたサルが高温処理により死亡した事例
  • 油圧式ドアに挟まれ、幼いサルが死亡した事故
  • 給水管理の不備により動物が脱水状態で死亡したケース

これらは高度な実験操作中の事故というより、基本的な管理体制や確認体制の不備に起因するものでした(*4)(*5)。

OHSUは過去に連邦当局から罰金を科されていますが、違反は繰り返されてきました(*4)。この点は、単なる個別のミスではなく、組織的課題の存在を示唆しています。


なぜ事故は繰り返されるのか ― 組織構造の問題

ONPRCをめぐる報道では、施設内部の職場環境や管理体制の問題も指摘されています。内部関係者の証言や報道によれば、職員の士気低下や人員体制の課題が背景にあるとされています(*4)。

動物実験施設では、日常的なケア業務が安全管理の要となります。もし現場が過重労働や情報共有不足の状態にあれば、その影響は最も弱い立場にある動物へと向かいます。

さらに、罰金制度の限界も構造的問題として指摘されています。数万ドル規模の罰金は、年間数千万ドル規模の研究資金を扱う大規模機関にとって、必ずしも強い抑止力にならない可能性があります(*4)。改善コストと罰金コストのバランスが逆転してしまえば、制度は十分に機能しません。


科学的妥当性の再検討

霊長類実験は、「人間に近い」という理由で重要視されてきました。実際に、ワクチン開発や神経科学研究などに一定の貢献があったことも事実です(*3)。

しかし近年、NIHは、ヒト由来細胞やオルガノイド、AIを活用した計算モデルなどの人ベースの研究技術の開発・活用を強化し、動物実験の使用を段階的に削減していく新たな方針を打ち出しています。(*6)。2022年のFDA Modernization Act 2.0 により医薬品開発における動物試験義務の見直しが始まり、2024年には、ヒトデータ活用を重視する動きがさらに広がっています(*5)。

医師団体PCRMは、ONPRCで行われてきた母子健康やアルコール影響研究について、人を対象とした観察研究や既存データの活用で代替可能であった可能性を指摘しています(*7)。

ここで重要なのは、「霊長類実験は常に不可欠なのか」という問いです。技術革新が進む中で、科学的妥当性は固定されたものではなく、常に再評価されるべきものです。


霊長類実験を支える経済構造

霊長類研究は巨額の公的資金によって支えられています。NIH助成金には研究費本体だけでなく、大学に支払われる間接経費も含まれます。つまり、研究の継続は大学経営とも密接に関係しています。

この構造の中では、研究テーマの妥当性や社会的許容性とは別に、「資金が得られるかどうか」が継続の重要な判断基準になる可能性があります。

OHSU理事会がサンクチュアリ化の検討を開始した背景には、社会的批判の高まりや財政的な圧力が影響していると報じられています(*1)。研究費の動向については明確な数字が示されているわけではなく、複合的な要因が指摘されています。科学、倫理、財政の三要素が交錯する中で、今後の方向性が決まっていくことになります。


転換点としてのサンクチュアリ構想

2026年の理事会決議は、米国において国立霊長類研究センターの将来を再考する初めての大規模な動きといえます(*1)。

しかし、閉鎖や転換には多額の費用がかかるとの試算もあり、最終決定までには時間を要する可能性があります(*1)。つまり、これは「終わり」ではなく「議論の始まり」です。


私たちにできること

ONPRCの問題は、単なる海外ニュースではありません。霊長類実験は日本国内でも行われています。

重要なのは、感情的対立を深めることではなく、

  • 実験の科学的妥当性は常に再評価されているか
  • 動物福祉基準は十分に守られているか
  • 代替技術への資金移行は進んでいるか

を冷静に問い続けることです。

技術革新が進む今、霊長類実験は「当然の前提」ではなくなりつつあります。ONPRCの事例は、その象徴的な転換点となる可能性を持っています。

私たちは事実を共有し、透明性を求め、科学と倫理の両立を支える方向へ議論を広げていく必要があります。

情報の拡散は、感情的な攻撃ではなく、根拠に基づく共有から始まります。本記事が、その一助となれば幸いです。


参照リスト

*1、https://www.opb.org/article/2026/02/09/ohsu-primate-research-center-sanctuary-talks/ ,OHSU enters talks that could convert primate research center into sanctuary(OPB)

*2、https://www.opb.org/article/2023/01/19/oregon-primate-research-center-violations-ohsu/ ,Primate research center in Oregon leads nation in violations(OPB / InvestigateWest)

*3、https://apnews.com/article/science-health-oregon-state-government-animals-7e1c99e8df664b825937595c637b0efa ,Oregon primate research facility under scrutiny after deaths(AP News)

*4、https://www.opb.org/article/2023/01/19/oregon-primate-research-center-violations-ohsu/ ,InvestigateWest report on ONPRC violations(OPB)

*5、https://apnews.com/article/science-health-oregon-state-government-animals-7e1c99e8df664b825937595c637b0efa ,AP News report on federal oversight and regulatory context

*6、https://www.nih.gov/news-events/news-releases/nih-prioritize-human-based-research-technologies ,NIH to prioritize human-based research technologies

*7、https://www.pcrm.org/onprc ,Oregon National Primate Research Center’s Costly Experiments(Physicians Committee for Responsible Medicine)

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