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オレゴン霊長類研究センター(ONPRC)の概要 

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オレゴン霊長類研究センター(ONPRC)の概要

オレゴン霊長類研究センター(ONPRC)は、1960年代に設立された米国立霊長類研究センターの一つで、主にNIH(国立衛生研究所)からの研究助成金で運営されています。現在、約4,800頭のサルが飼育され、380人超の職員が勤務しているとされます。

OHSU(オレゴン健康科学大学)の広報によれば、ONPRCの資金はほとんどがNIHやビル&メリンダ・ゲイツ財団などの競争的研究助成金で賄われており、研究以外の用途には転用できません。一方で、ONPRCではワクチン開発や病気治療法の研究成果も得られており、例えばCOVID-19やポリオ、麻疹などのワクチン開発、心臓病やがん、糖尿病などの新治療法に貢献していると宣伝されています。

ONPRCの屋外囲いで飼育されるニホンザルたち。研究センターでは餌や遊具を使った環境エンリッチメントが行われているとされていますが、飼育下での社会的・身体的ストレスについても議論があります。

事故例と内部告発

近年、ONPRCにおける事故や動物の死傷に関する報告が相次いでいます。2020年8月には、ケージ洗浄機に2頭のサルが誤って入り込み、1頭が熱湯で重度の火傷を負って死亡、もう1頭も安楽死処分となる事故が起きました。その前年には給水不足により小動物(プレーリードッグ)5匹が死亡し、さらにその前年にはサル1頭が自身の檻内の配管に絡まって窒息死する事故が報告されています。

  • 2020年:ケージ洗浄機事故でサル2頭が負傷(うち1頭死亡)。
  • 2019年:ケージ内の給水不備で5匹のプレーリードッグが死亡。
  • 2018年:サル1頭が檻の配管に絡まり死亡。

これらの死傷事故を受け、約62名の飼育担当者らが「危険な職場文化」を問題視する嘆願書に署名し、現場の管理体制を批判しました。嘆願書では「今回の事故は単なる不運ではなく、粗悪な現場管理と上層部の責任放棄が原因」と指摘されています。

法規制と罰則の現状

ONPRCは連邦動物福祉法(AWA)の対象施設で、米農務省(USDA)の定期検査を受けています。調査報告によれば、2014~2022年にONPRCは31件もの違反を記録し、うち15件が「重大違反」と判断されており、学術機関の霊長類施設として最多でした。例えば2018年~2021年の違反について2022年11月にUSDAと和解し、約3万8千ドルの罰金を支払っています。以前にも約1万2千ドルの和解金支払いがあり、米国司法省からは研究経費の水増し疑惑で2018年に130万ドルの罰金を課されたことがあります。

https://www.ohsu.edu/onprc/photo-gallery母ザルに抱かれる子ザル(ONPRC施設提供)。厳しい研究環境下でのサルたちの精神的ケアは常に課題となっています。

違反件数が多い背景には、連邦の罰金額が研究センターの予算規模に比べて極めて低額に抑えられている事情があります。OPBの調査では、ONPRCの年間予算は約6000万ドルに上る一方、最大の罰金額は数万ドルに過ぎません。ある動物福祉団体代表は「40000ドルの罰金など経費の一部に過ぎず、実質的な抑止力はない」と批判しています。実際、他大学の類似施設でも、小規模な脱走事件で数千ドル~7万ドル程度の罰金が科されるにとどまっており、全体として「罰金制度の限界」が指摘されています。

内部報告と記録操作の疑い

2025年にはPETAが内部告発を受けたとして、ONPRCの上層部が事故や怪我を公式記録に残さないよう指示していると米農務省に書簡で通報しました。 PETAは、匿名の飼育員の証言として「施設は腐敗している」「サルが苦しむのは道徳心の欠如だ」と伝え、人為的ミスやストレスによる攻撃は頻発しているものの公表されていないと主張しています。 OHSU側はIACUC(動物使用委員会)や監査体制に基づき改善を進めていると説明しており、一方で独立監視の強化を求める声も強まっています。

資金構造と閉鎖コスト

ONPRCの運営費は主にNIH助成金が占めます。NIHは国立霊長類研究センター(NPRC)制度を通じ、全米7カ所のセンターに資金を分配しており、ONPRCもその一つです。OHSUによればONPRCの閉鎖には施設の解体・移転などで約1億ドルが必要になると試算されています。一方、州議会の依頼を受けた報告では、即時閉鎖なら8年間で約2.41億ドル(うち毎年1億ドルの研究費損失を含む)にも上るとされ、運営継続と閉鎖では閉鎖の方がむしろ高コストとの分析結果でした。ただし、研究を段階的に縮小すれば1.18億ドル程度に抑えられるとも言います。この報告に対し、反対派は「センターは実質的に財政破綻状態であり、閉鎖に高額費用を見積もっているだけ」と批判しています。

PETAなど動物実験反対派は「ONPRCは年間5000万ドル以上の税金を使い、5000頭以上のサルを不必要に飼育している」と主張しており、2025年州議会は州予算の中で「NIH助成が一定以上減少した場合や州資金が投入された場合に閉鎖計画を策定する」と条件付けました。これにより公費で実験を継続しない仕組みが初めて整いましたが、長年ONPRCの支援を受けてきた研究者や関連産業からは強い反発も上がっています。

科学的妥当性と代替手法の検討

霊長類実験の科学的意義に関しては再評価の声が出ています。近年、動物モデル実験のヒトへの翻訳性(translatability)や再現性(reproducibility)の低さが指摘されており、実際に前臨床段階で有望だった薬剤の約95%が臨床試験で失敗するというデータも報告されています。特に霊長類は飼育コストや倫理的制約が大きく、霊長類で得られた知見が必ずしもヒトに当てはまるわけではありません。そのため、研究コミュニティでは「3R」の理念(Replacement, Reduction, Refinement)に基づき、霊長類使用を最小限に抑え、可能な限り細胞・組織モデルやコンピュータシミュレーション、高度な画像技術など非動物的手法への移行を模索する動きが強まっています。OHSUも「動物なしで研究できればそれに越したことはない」と述べ、代替法開発に投資すると表明しています。しかし現状では多くの画期的治療法開発において霊長類実験が担ってきた役割も事実であり、ハーム・ベネフィット(危害と利益)のバランス評価には複雑な議論が必要です。

構造的課題と今後の展望

以上の通り、ONPRCをめぐる議論は単なる施設内事故の問題にとどまらず、霊長類実験全体に横たわる構造的な課題を浮き彫りにしています。監督機関(USDA、NIH、AAALACなど)は存在しますが、実際には内部監査報告の公表義務が不十分で州外からの監視も効きにくい現状があります。現行法では、ONPRCのように州資金を受け取らない研究機関は州当局への定期報告義務がなく、議会や市民は情報を入手しにくいのが実情です。また、違反が見つかっても課される罰金は予算の一部にすぎず、抑止効果は限定的です。

議会関係者は、責任ある研究を担保しつつ非動物代替の促進と安全対策強化の両立を模索しており、OHSUに対しては「職員の待遇改善・専門教育の充実」「非動物的アプローチへの研究転換」「余剰サルの人道的な保護施設移行計画策定」なども求められています。ONPRC自身は「動物福祉には細心の注意を払い、改善を継続する」と主張し、閉鎖費用に見合う代替インフラ整備の難しさを訴えています。しかし、動物実験に批判的な社会的潮流と科学的議論は今後も続く見込みであり、特に米国ではFDAやNIHが動物実験への依存を段階的に見直す方針を示しています(例えば2015年に霊長類に近いチンパンジーを国策研究から外したことなど)。

ONPRCに限らず、霊長類実験を含む動物実験全体には、科学的正当性の再検証と透明性・倫理性の向上が求められています。オレゴン霊長類研究センターの今後の在り方は、この大きな課題の縮図であり、産学官民の協議を通じて新たな研究モデルへの移行が図られることが期待されます。

参考文献

*1. Kaylee Tornay, “Primate research center in Oregon leads nation in violations”, OPB (Jan. 19, 2023), https://www.opb.org/article/2023/01/19/oregon-primate-research-center-violations-ohsu/ .
*2. OHSU Communications, “OHSU addresses claims made in campaign to close Oregon National Primate Research Center”, OHSU News (Apr. 30, 2025), https://news.ohsu.edu/2025/04/30/ohsu-addresses-claims-made-in-campaign-to-close-oregon-national-primate-research-center .
*3. Anthony Effinger, “Leaders at OHSU Primate Center Are Covering Up Animal Injuries and Deaths, PETA Says”, Willamette Week (June 27, 2025), https://www.wweek.com/news/2025/06/27/leaders-at-ohsu-primate-center-are-covering-up-animal-injuries-and-deaths-peta-says/ .
*4. PETA Foundation, “Updates: Campaign to Shut Down Oregon National Primate Research Center” (last updated Sept. 9, 2025), https://www.peta.org/news/campaign-updates-to-shut-down-oregon-national-primate-research-center/ .
*5. Joanne Zuhl (The Lund Report/OPB), “Shuttering primate research center could cost $1 billion over eight years, OHSU report asserts”, OPB (Jan. 6, 2026), https://www.opb.org/article/2026/01/06/primate-research-center-ohsu-funding-costs/ .
*6. Jane Johnson, “Lost in Translation: Why Animal Research Fails to Deliver on Its Promise”, Issues in Science and Technology (Summer 2021), https://issues.org/lost-in-translation-animal-research-fails-johnson/ .

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