はじめに:動物を使わない科学(Non-Animal Science)へのシフトと資金獲得
近年、欧米を中心にNAMs(New Approach Methodologies:動物実験を置き換え・削減・高度化する新しい試験法)への科学的・社会的関心が高まっています。 ヒト生物学に基づいた「Organ-on-a-Chip(生体機能チップ)」や「in silico(AI・コンピュータシミュレーション)」などの技術は、動物福祉の観点だけでなく、ヒトへの外挿性(予測精度)の向上や開発コストの削減という点でも大きな期待が寄せられています。
こうした最先端の科学に取り組む研究者の皆様を支援するため、国内外の助成金や表彰制度をまとめました。研究資金の獲得や、国際的なネットワーク構築にお役立てください。
国内の学会・財団による助成・表彰
日本国内には、代替法や3Rs(Replacement, Reduction, Refinement)に特化した助成制度が複数存在します。特に若手研究者のキャリア支援に積極的な財団も多くあります。
日本動物実験代替法学会 (JSAAE)
- 表彰・助成: 代替法に関する優れた研究や論文、若手研究者の活動、学会発表などを対象とした賞やトラベルアワード、研究助成制度があります。具体的な制度名や募集内容は年度によって異なるため、詳細は公式サイトで最新情報をご確認ください。
- 詳細: 日本動物実験代替法学会 公式サイト
(公財) マンダム国際研究助成
- 対象: 動物実験代替法を含む化粧品科学分野の研究に取り組む国内外の研究者を対象としており、アジアの研究者や若手研究者の支援にも力を入れています。
- 助成額: 助成額や件数は年度や枠によって異なるため、具体的な金額については各年度の公募要項をご確認ください。
- 特徴: 化粧品分野における代替法の確立を目指す研究者にとって、貴重な資金源となっています。
(公財) コスメトロジー研究振興財団
- 対象: 化粧品学に関連する広範な研究。安全性評価における『動物を用いない評価系』の構築を含む研究も、テーマや内容によっては助成対象となり得ます。
- 助成額: 1件あたり100万円~200万円
- 詳細: コスメトロジー研究振興財団 公式サイト
(公財) コーセーコスメトロジー研究財団
- 対象: 膚科学、アレルギー学等の基礎研究。動物実験代替法を含め、皮膚科学の発展に寄与する多様な研究を支援しています。
- 助成額: 1件100万円~
公的研究費(国家プロジェクト・競争的資金)の活用
「動物実験代替法」という直接的な区分がない場合でも、関連するキーワードを用いることで、科研費やAMEDなどの大型予算を獲得できる可能性があります。
日本医療研究開発機構 (AMED)
創薬研究の効率化が求められる中、以下の分野で公募が行われる傾向にあります。
- MPS(Microphysiological Systems / 生体模倣システム)
- Organ-on-a-Chip(臓器チップ)
- iPS細胞を用いた疾患モデルなどは、創薬研究の効率化やヒト関連性の向上を目的として公募が行われており、結果として動物実験データのヒトへの外挿性に関する課題に対処する手段としても期待されています。
科学研究費助成事業(科研費)
基盤研究や若手研究の申請において、以下のキーワードが採択実績として増えています。
- in vitro 評価系
- in silico 毒性予測
- 培養細胞モデル / 3次元培養
- 人工臓器モデル
環境省(化学物質等の安全管理推進費)
化学物質の生態影響評価において、QSARやin vitro試験、ミジンコや藻類を用いた試験など、脊椎動物を用いない評価手法を含む研究が募集対象となる場合があります。具体的な募集テーマや条件は年度ごとに異なるため、最新の公募要領をご確認ください。
国外の大型助成金・アワード(日本の研究者も応募可能)
海外、特にEUや北米では、動物実験代替法の開発に特化した巨額のファンドや名誉ある賞が存在します。日本の研究室からの受賞実績もあります。
Lush Prize (ラッシュ・プライズ)
英国の化粧品会社LushとEthical Consumerが主催する、代替法分野で世界最大規模の国際賞です。
- 部門: 「科学賞」「トレーニング賞」「若手研究者賞」などがあり、若手研究者賞にはアジアを含む世界各地から受賞者が選出されています。
- 賞金: 総額25万ポンド(約4,000万円以上 ※年度による)
- 実績: 過去に複数の日本人研究者が受賞しており、国際的な認知度向上につながります。
- 詳細: Lush Prize 公式サイト
PETA Science Consortium Travel Awards
米国PETAの科学コンソーシアムが提供する支援プログラムです。
- 内容: 米国毒性学会(SOT)や世界代替法会議(WC)へ参加するための渡航費支援や、特定の非動物実験機器(Vitrocellなど)の供与。
- 対象: 学生やポスドクを含む若手研究者が対象となることが多いです。
ARDF Open Project Program
米国のAlternative Research & Development Foundationによる助成プログラム。
- 内容: 非動物試験法など、代替法の開発・検証研究に対する助成。
- 規模: 最新の公募では最大5万ドル程度を上限とする助成が行われています(年度により異なるため、詳細は公募要項を確認してください)。
AAALAC International Global 3Rs Awards
実験動物ケアの国際認証機関AAALACによる賞です。3Rs(Replacement, Reduction, Refinement)に顕著に貢献した論文や研究を表彰します。
企業との連携(オープンイノベーション)
特定の助成金ではありませんが、以下の企業等は「動物実験代替法」に関する技術や知見を求めており、共同研究のパートナーを探している場合があります。
- 花王 (Kao): 皮膚感作性試験(h-CLAT)などの代替法の開発実績があり、安全性評価技術に関する共同研究やオープンイノベーションの取り組みを行ってきています。
- 資生堂 (Shiseido): 独自の人工皮膚モデル開発など、代替法技術の研究開発やオープンイノベーションに積極的に取り組んでいます。
- 化学メーカー各社: 規化学物質の法規制対応(REACHなど)に向けて、in silico予測モデルやin vitro試験など代替的な評価技術のニーズが高まっており、共同研究等の機会が設けられる場合もあります。
おわりに
動物実験代替法の研究は、倫理的な課題解決だけでなく、「よりヒトに近い科学(Human-Relevant Science)」を実現するための重要なステップです。
ヘルプアニマルズは、感情的な対立ではなく、科学技術の進歩によって「動物も人も犠牲にしない未来」が訪れることを強く支持しています。
本ページの情報が、先生方の研究の一助となれば幸いです。
※本記事に掲載している情報は、執筆時点のものです。各助成金・賞の募集時期や要件は年度によって異なりますので、必ず各主催団体の公式サイトにて最新情報をご確認ください。

