今週考えたこと:クマの駆除報道を見て思うこと
(2025年12月24日)
今年も、各地でクマの出没と人身被害が相次ぎました。
2025年はとくに秋以降の被害が深刻化し、国の資料でも、出没件数・死亡事故ともに過去最多水準に達していることが示されています(*1)。
人命が最優先であることに異論はありません。
危険が差し迫った状況で、駆除が選択される現実があることも、頭では理解しています。
それでも、クマの駆除報道を見続けるなかで、どうしても気になってしまう点があります。
駆除されたクマが親だった場合、残された小熊がいることがあります。
その存在に触れる報道は時折ありますが、「その小熊がその後どうなったのか」まで追う記事は、ほとんど見かけません。
保護されたのか、移送されたのか、それとも生き延びることができなかったのか。
出来事は「駆除」で完結し、その先の時間は、報道の外に置かれてしまいます。
2025年には、北海道で母グマが駆除された後、残された子グマが最終的に命を落とした事例も報告されています(*2)。
こうした出来事は決して特異なものではなく、「親を失った後、野生動物はどう扱われるのか」という問いが、社会の中で十分に共有されていない現実を映しているように思います。。
背景は語られても、問いまでは届かない
クマが人里に下りてくる背景として、人間の生活圏の拡大や、里山環境の変化、餌資源の偏りがあることは、近年の報道でも触れられるようになりました(*1)。
ただ、それらは多くの場合、状況説明として簡潔に示されるにとどまり、
「では、同じことを繰り返さないために、私たちは何を変えられるのか」
という問いまで踏み込まれることは、まだ少ないように感じます。
駆除以外の選択肢が示してきたもの
国内には、クマを即座に駆除するのではなく、人の生活圏が「居心地の悪い場所」だと学習させて山へ返す学習放獣という考え方があります。
長野県軽井沢町では、NPO法人ピッキオが中心となり、捕獲したクマに発信機を装着し、追い払い訓練やベアドッグによる対応を継続してきました。その結果、2010年以降、市街地での人身被害ゼロを維持していると報告されています(*3)。
また、東北地方を含む複数地域では、1990年代以降、学習放獣や追跡調査が行われ、放獣後の行動に関する知見が積み重ねられてきました(*4)。
こうした事例は、「駆除しかない」という発想以外の道が、現実に存在してきたことを示しています。
一方で、2025年秋のように出没と被害が急増した局面では、長野県が学習放獣を一時休止し、捕獲個体を原則駆除とする判断を下しました(*5)。
この判断は、人命を守るための苦渋の選択であり、理想だけでは運用できない現実を突きつけます。
同時に、それは裏を返せば、平時から人里にクマを引き寄せる誘因物(餌となるもの)を減らし、緩衝帯づくりを積み重ねていなければ、選択肢は一気に狭まってしまうということでもあります。
国の「クマ被害対策パッケージ」でも、電気柵の設置や、誘因物管理、専門家の派遣など、出没を未然に防ぐ対策の重要性が強調されています(*6)。
海外に見る「理想化しない共存」
海外でも、人とクマの衝突は簡単に解決できる問題ではありません。
アメリカやカナダでは、捕獲後に嫌悪刺激を与えて人里回避を学習させる方法や、移送(リロケーション)の試みが行われてきました(*7)。
ただし、移送は万能ではなく、環境に適応できず再び人里に戻ってしまうケースも多いことが、国立公園当局の報告からも明らかになっています(*8)。
それでも、どの個体が、なぜ捕獲・移送されたのかを公開し、社会全体で判断を共有しようとする姿勢は、日本にとっても学ぶ点があるように思います。
それでも、考え続けたい
私は、クマを「かわいそう」と単純に言いたいわけではありません。
人の命を守るための判断が必要な場面があることも、現場の重さも、理解しているつもりです。
ただ、山に生きる動物たちにも、それぞれの生活があり、家族があり、学びがあります。
その当たり前の事実を、「駆除されました」「怖いですね」という言葉の陰に隠してしまわず、背景と選択肢を含めて考える余地を残したい。
人と野生動物が、追い詰め合うだけの関係で終わらないように。
距離の取り方を学び直す社会であり続けたい。
そんな思いで、今年のクマのニュースを振り返っています。
参照リスト
*1 内閣官房「クマ被害対策等について(令和7年10月30日)」
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kumahigai_taisaku/dai1/shiryo1.pdf
*2 北海道における母グマ駆除後の子グマ事例(2025年)
https://kumamori.org/topics/event/20251204.html
*3 軽井沢町における学習放獣と被害ゼロの継続(読売新聞)
https://www.yomiuri.co.jp/local/nagano/feature/CO080860/20251006-OYTAT50022/
*4 秋田県の学習放獣の長期的取り組み
https://kumamori.org/topics/kumamori-news/20251027.html
*5 長野県、学習放獣を一時休止し全頭駆除方針(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/960531
*6 環境省「クマ被害対策パッケージ」
https://www.env.go.jp/nature/choju/effort/effort12/kuma-oshirase-r071114-2.pdf
*7 カナダ・アルバータ州 Aversive Conditioning
https://www.alberta.ca/aversive-conditioning
*8 米国国立公園局:クマ移送の限界に関する報告
https://www.nps.gov/glac/learn/news/aggressive-food-conditioned-grizzly-euthanized-in-gnp.htm

