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羽と皮革のために犠牲になる動物たち──ダウンとレザー産業の裏側

牛やワニ、鳥のシルエット

――「素材」の背後にある、見えない命の現実

私たちが日常的に身に着けている衣類や靴、バッグ、寝具の多くには、動物由来の素材が使われています。ダウンジャケットに詰められた羽毛、革靴や財布、ベルト、バッグに使われる皮革は、その代表的な例です。これらの素材は「天然」「高級」「長く使える」「サステナブル」といったイメージとともに語られることが多く、私たちの生活にごく自然に溶け込んでいます。

しかし、その素材がどのように生産され、どのような動物たちが、どのような扱いを受け、どのように命を落としているのかについて、私たちが知る機会は極めて限られています。製品タグに記載されているのは素材名や原産国、場合によっては認証マークのみであり、動物が経験した苦痛や生きた過程は、消費者の視界から切り離されがちです。たとえば日本では、革/合成皮革の表示ガイドは整備されていますが、動物の扱われ方までを表示する仕組みは基本的に別問題として扱われています(*1)。

羽や皮革はしばしば「副産物」「無駄を出さない利用」と説明されますが、国際機関や調査資料、認証制度の文書を丁寧に読み解くと、そこには構造的に組み込まれた動物の犠牲が存在していることが分かります。本稿では、羽毛産業と皮革産業それぞれについて、犠牲となっている動物たちの実態と、その背景にある産業構造・制度・消費のあり方を整理していきます。


目次

羽(ダウン/フェザー)のために犠牲になる動物たち

羽毛製品を支える巨大な水鳥産業

ダウンやフェザーは、主にアヒルやガチョウといった水鳥から得られます。これらの羽毛は、羽枝が絡み合う構造によって多くの空気を含み、優れた保温性を発揮します。そのため、防寒衣料、寝具、アウトドア用品などで長年重宝されてきました(*2)。

世界の羽毛供給を見渡すと、羽毛は国際的なサプライチェーンの中で流通し、品質・表示や取引上の基準整備も進んでいます(*3)。また、日本では業界団体による白書(翻訳)を通じて、倫理面・環境面を含む業界の整理情報が共有されています(*4)。ただし、こうした資料が整備されることと、現場での動物福祉が十分に担保されることは必ずしも同義ではありません。

羽毛は多くの場合、食肉用として飼育された水鳥から得られると説明されますが、実際には羽毛そのものが独立した高付加価値商品として流通しており、水鳥が「肉」と「羽毛」という二重の経済価値を担わされている構造が存在します(*4)。一部の地域や時期では、この構造は、水鳥を単なる食肉用家畜ではなく、繰り返し利用される生産資源として扱う誘因を生み出してきました。

ライブプラッキングと繰り返される苦痛

羽毛産業において長年問題視されてきたのが、ライブプラッキング(生きたまま羽をむしる行為)です。all-creatures.org がまとめている情報によれば、羽が再生するという生物学的特性を理由に、同じ鳥から複数回にわたって羽毛を採取する行為が行われてきたとされています(*5)。

この過程で、水鳥は強い痛みや恐怖を受け、皮膚の裂傷、出血、感染症などのリスクにさらされ得ます。さらに、拘束されること自体が強いストレスとなり、健康や行動に悪影響を及ぼし得る、という問題提起もなされています(*5)。

こうした批判を受けて国際的に整備された代表的な枠組みが Responsible Down Standard(RDS) です。RDSは、ライブプラッキングや強制給餌の禁止、飼養環境の改善、羽毛のトレーサビリティ確保を求める認証制度です(*2)。羽毛製品を選ぶ際、RDSのような第三者認証は「最低限どこを見るべきか」を示す目印になります。

ただし重要なのは、RDSが任意の認証であるという点です。すべての羽毛製品がRDSに準拠しているわけではなく、認証の有無は消費者自身が確認しなければ分かりません。つまり、同じ「ダウン」と表示されていても、その背後の扱いが同等とは限らないのです(*2)。

飼育段階に組み込まれた福祉問題

羽毛採取そのものだけでなく、水鳥が置かれている飼育環境にも多くの課題があります。欧州食品安全機関(EFSA)の意見書(opinion)によれば、アヒルやガチョウ等の飼養における福祉リスクが体系的に整理され、過密、運動制限、疾病、身体的損傷、慢性的ストレスなどが問題として扱われています(*6)。

つまり、羽毛産業の問題は、単発的な「残酷行為」だけではなく、飼育から利用まで一貫して動物の苦痛が起こり得る構造的問題だと言えます。認証や業界ガイドラインが存在しても、それがすべての生産現場に徹底されているとは限らず、見えない場所で犠牲が続いている可能性は否定できません(*2,*4)。


皮革(レザー)のために犠牲になる動物たち

「副産物」という説明では十分に語られない現実

皮革については、「食肉産業の副産物だから無駄がない」「動物を余すことなく利用している」という説明が広く用いられています。FAOの統計資料では、原皮(hides/skins)や皮革が統計上まとめられ、畜産・食肉と結びつく形で皮革の供給が成立していることが示されています(*7)。また、日本の皮革産業団体も、皮革利用を資源の有効活用として位置づけています(*8,*9)。

ただし、この説明は皮革産業の全体像の一部にすぎません。皮革が高い経済価値を持つことで、皮を得ること自体が主たる生産目的となるケースが生まれてきました。特に高級皮革や特定用途向けの革では、皮の品質が強く優先されることで、動物の扱い(飼育・輸送・と畜)における福祉課題が見過ごされやすくなります(*8,*10)。

エキゾチックレザーと野生動物の犠牲

ワニ、ヘビ、トカゲなどのエキゾチックレザーは、国際的に高い需要を持つ分野です。これらの動物はワシントン条約(CITES)によって国際取引が管理されていますが、条約の主目的は「種の絶滅防止」であり、個々の動物の苦痛や殺害方法までを包括的に規制する制度ではありません(*11)。

WWFの報告書では、野生動物取引の実態や、取引が抱えるリスク(違法取引の混入など)について整理が行われています(*12)。また、World Animal Protectionは、ファッションにおける野生動物利用(エキゾチック・スキン等)に対し、倫理面の問題を提起しています(*13)。高価であるがゆえに、管理が甘い地域や業者では倫理的配慮が後回しにされやすい、という構造的懸念がつきまといます(*12,*13)。

さらに、all-creatures.org がまとめた皮革関連資料では、皮革のために犠牲になる動物が、いわゆる畜産動物だけにとどまらない可能性について、過去の論点が整理されています(*14)。この点は、消費者が「牛革のつもり」で購入しても、サプライチェーン全体の透明性が弱い場合、どのような原料が混入し得るのかを判断しにくい、という問題意識にもつながります(*1,*14)。

政策・経済と結びつく皮革産業

皮革産業は、単なる民間ビジネスではありません。たとえばオーストラリア北部準州政府が公表しているワニ産業戦略計画では、ワニの飼育・産業が地域経済の一部として明確に位置づけられています(*15)。このように、皮革生産は政府の経済政策や地域振興と結びつき、動物の利用が「雇用」や「成長」の名のもとに正当化される構造を持っています。

一方で、EUでは動物福祉法制の改正(見直し)の動きが進められており(*16)、英国でも動物福祉に関する年次報告等を通じて、と畜場などでの扱いに目を向ける仕組みが整えられています(*17)。こうした政策動向は、皮革の原点となる「飼育・輸送・と畜」段階での福祉改善に影響し得る重要な変化です(*16,*17)。


消費者は何を知らされていないのか

日本の表示制度を見ると、「革」「合成皮革」といった素材表示のルールは定められていますが、動物がどのように扱われたか、どのような方法で殺されたかまでを表示する枠組みは別の問題として残りやすい状況です(*1)。そのため多くの消費者は、製品の背後にある犠牲や福祉上の論点を知らないまま購入しています。

企業側では、調達方針や素材ページでレザーに関する方針・考え方を示す例もあります(*18)。また、皮革産業側の枠組みとしてLeather Working Groupが「アニマルウェルフェア」を論点として掲げています(*19)。しかし、企業方針や業界枠組みがあることと、それがサプライチェーンの末端まで一貫して担保されることの間にはギャップが生まれ得ます。結果として、「知らないまま消費すること」自体が、問題のある慣行を間接的に支え続けてしまう構造が生まれやすくなります(*2,*19)。


私たちが向き合うべき選択

羽毛や皮革の問題は、単なるファッションや個人の好みの問題ではありません。それは、どのような命を犠牲にし、どのような社会を選び取るのかという倫理的な問いです。

認証制度を確認すること、企業の調達方針の透明性をチェックすること、代替素材を選択肢に入れること、説明責任を求めることは、すぐに世界を変える行動ではないかもしれません。しかし、そうした選択の積み重ねこそが、産業構造を見直す力になります(*2,*13)。


おわりに

羽と皮革のために犠牲になっている動物たちは、私たちの視界の外で静かに苦しみ、命を落としています。その現実を知ることは決して心地よいものではありません。しかし、知った上で選ぶことこそが、動物福祉を前進させる第一歩です。

私たち一人ひとりの消費行動が、未来の動物たちの扱われ方を左右していることを、改めて考える必要があるのではないでしょうか。


参照リスト

*1 消費者庁|革又は合成皮革を製品の全部又は一部に使用した家庭用品について(表示等)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/guide/zakka/zakka_16.html

*2 Textile Exchange|Responsible Down Standard(RDS)
https://textileexchange.org/responsible-down-standard/

*3 International Down and Feather Bureau(IDFB)|Trade Resources
https://idfb.net/trade-resources

*4 日本羽毛製品協同組合|Environmental White Paper 2023(IDFB白書 日本語版)
https://www.nichiukyo.org/wp-content/uploads/2023/10/Environmental-White-Paper-2023-Environmental-Maintenance-and-Ethical-Practices-JP.pdf

*5 all-creatures.org|Feather Cruelty(羽毛採取の残酷性に関する整理)
https://all-creatures.org/clothing/clothing-oppose-feather-cruelty.html

*6 EFSA Journal (2023)|Welfare of ducks, geese and quail on farm
https://efsa.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.2903/j.efsa.2023.7992

*7 FAO|World statistical compendium for raw hides and skins, leather…
https://openknowledge.fao.org/bitstreams/1e324cc9-5733-44cb-8af9-a049cc67f8f3/download

*8 日本皮革産業連合会(JLIA)|Thinking Leather Action
https://tla.jlia.or.jp/

*9 日本皮革産業連合会(JLIA)|「革」「レザー」の用語がJISにて制定(資料PDF)
https://www.jlia.or.jp/files/file2_20240711151842599.pdf

*10 Our World in Data|How many animals get slaughtered every day?
https://ourworldindata.org/how-many-animals-get-slaughtered-every-day

*11 CITES|Appendices I, II and III(2023版PDF)
https://cites.org/sites/default/files/eng/app/2023/E-Appendices-2023-11-25.pdf

*12 WWF|TRACKING THE TRADE(野生動物取引に関する報告書PDF)
https://www.wwf.or.jp/activities/data/WWF_report-tracking-the-trade-eng.pdf

*13 World Animal Protection|Wild animals do not belong in fashion
https://www.worldanimalprotection.org.uk/latest/blogs/wild-animals-do-not-belong-in-fashion/

*14 all-creatures.org|皮革に関する資料(羽毛・毛皮以外の動物利用に関する論点整理を含む)
https://www.all-creatures.org/ha/archive/nofur/hikaku.html

*15 Northern Territory Government(豪NT)|Crocodile Farming Industry Strategic Plan 2024–33(PDF)
https://dtbar.nt.gov.au/__data/assets/pdf_file/0010/1368586/crocodile-strategic-plan-24-33.pdf

*16 European Commission|Revision of EU animal welfare legislation
https://food.ec.europa.eu/animals/animal-welfare/evaluations-and-impact-assessment/revision-eu-animal-welfare-legislation_en

*17 UK Food Standards Agency|Animal Welfare Report 2024/25
https://www.food.gov.uk/board-papers/animal-welfare-report-202425

*18 H&M Group|Leather(素材ページ)
https://hmgroup.com/sustainability/circularity-and-climate/materials/leather/

*19 Leather Working Group|Animal Welfare
https://www.leatherworkinggroup.com/our-impact/animal-welfare/


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