動物実験とは
動物実験とは、医薬品開発や安全性評価、基礎研究などにおいて、動物を用いて生体への影響を調べる研究手法です。
日本でも多くの大学・企業・研究機関で行われていますが、その実態は十分に公開されているとは言えません。
本ページでは、日本における動物実験の現状と、世界で進む「代替法」への移行の流れを、事実に基づいて整理します。
日本における動物実験の現状
日本では、年間に使用される実験動物の数、使用目的、実験後の動物の扱いなどについて、包括的に把握できる公開資料は限られています。
企業別・研究機関別の使用状況が原則として公開されておらず、社会全体として正確な実態を把握しにくい構造が続いています。
また、多くの動物は実験後に殺処分され、海外で進む「リホーミング(譲渡制度)」も、日本では限定的な取り組みにとどまっています。
公的調査が示す「実験動物取扱い」の実態
環境省は2023年度に「実験動物取扱いの実態に関する調査」を実施し、その結果を2024年11月に公表しました。
これは、日本の研究機関における動物実験の運用状況について、国が初めて体系的に実態を確認した重要な調査です。
調査結果からは、制度が「存在している」ことと、「実際に機能している」ことの間に、大きなギャップがあることが明らかになっています。
内部規程・自己点検は「未実施」の機関が存在
環境省の基準により求められている、
・機関内規程の整備
・自己点検・評価の実施
については、約8割の機関で実施されていましたが、約2割の機関では未実施という結果が示されました。
第三者検証と結果公表は十分ではない
特に問題となるのは、外部チェックと情報公開の弱さです。
・自己点検結果を公表している機関:6割台
・第三者(外部)による検証を実施している機関:6割台
つまり、点検していても、外部からは見えない機関が一定数存在するという実態が浮き彫りになっています。
3R原則は「建前」になっている現場も
動物愛護管理法に定められた3R(代替・削減・苦痛軽減)について、
・実験計画書に3Rの欄を設けている
・3Rに関する教育を実施している
と回答した施設は8割を超えました。
一方で、
・使用動物数削減の「根拠」を示せている機関は7割台
・教育訓練については「全項目を実施している施設」と「一切行っていない施設」に二極化
という結果も示されています。
制度が「存在している」だけで、「質の伴う運用」がされていない現場があることを示唆しています。
エンリッチメントと外部監視は依然として弱い
調査では、以下の点も報告されています。
・エンリッチメント(運動・刺激・環境改善)をまったく行っていない施設が存在
・第三者検証を導入していない機関が一定数存在
この結果は、日本の動物実験において、
「福祉」「透明性」「外部の目」が制度として十分に根付いていないことを意味しています。
国際的な動向
世界では、動物実験に依存しない研究手法への転換が急速に進んでいます。
主な動きとしては、
・米国:動物実験の義務規定の見直し
・EU:代替法を中心に据えた制度設計
・国際的枠組み:3R原則の国際標準化
などが進められています。
国際的には、動物実験を前提としない研究開発が新たなスタンダードになりつつあります。
日本と海外の違い
欧米では、動物実験は数ある研究手法のひとつとして位置づけられ、以下のような代替技術と組み合わせて利用されています。
・in vitro(細胞・組織試験)
・in silico(コンピュータ解析)
・オルガノイド(ミニ臓器)
・ヒト組織を用いたex vivo試験
一方、日本では、評価制度や制度整備の遅れにより、代替技術の実用化が進みにくい状況があります。
実験動物の利用状況(概要)
日本で使用される実験動物には、マウス、ラット、ウサギ、モルモットのほか、犬やサルなど、特に高い倫理配慮が求められる動物種も含まれます。
しかしながら、
・使用数
・目的
・処遇
・廃棄・譲渡状況
といった情報は、一元的には開示されていません。
透明性の向上は、日本の動物実験制度における最重要課題のひとつです。
実験動物をめぐる主な課題
現在の制度には、以下の問題があります。
・情報公開が不十分
・代替法が制度的に評価されない
・倫理審査が内部中心
・第三者評価制度が弱い
・リホーミング制度が整備されていない
動物実験をめぐる議論は、感情論ではなく、制度設計と科学の精度の問題として扱われるべき段階に入っています。
制度を「実効性あるもの」にするための提案
環境省調査の結果を踏まえ、日本の動物実験制度には、次のような改革が必要です。
・すべての実験計画書における3R記載の義務化
・3R教育の標準化
・国費投入施設への調査回答の義務化
・第三者評価・外部監査の導入
・エンリッチメント実施状況の公開
・実験動物のリホーミング制度整備
「制度がある」だけでなく、「機能している制度」へと転換することが求められています。
動物実験のこれから
動物実験の見直しは、「動物のため」だけではありません。
・科学の精度向上
・研究の効率改善
・国際競争力の確保
・社会的信頼の向上
という点において、日本にとっても不可欠な課題です。
今後は、
・代替法研究への戦略投資
・評価制度の国際整合
・第三者監査の導入
・使用動物数削減の数値目標設定
など、制度レベルでの本格的改革が求められています。
日本の動物実験:制度と実態のギャップ

動物実験カテゴリ記事
-
動物実験
米EPAが「2035年までに動物実験を廃止」方針を強化──世界に何をもたらすか?
-
捕鯨・イルカ・水族館


企業回答から見える体質と、動物福祉・消費者保護をめぐる共通課題 ― LINEヤフー・マクドナルド・武田薬品の回答分析から ―
-
捕鯨・イルカ・水族館


政策要望
-
動物実験


世界のチンパンジーサンクチュアリ最新事情|研究利用から引退後の「余生の家」まで
-
動物実験


動物実験の苦しみを減らすために:3RsとNAMs推進を行政に届ける方法
-
動物実験


イギリス政府が示した動物実験フェーズアウト・ロードマップとは|期限・代替法・日本への影響
-
動物実験


動物実験の現状と代替技術の進展:統計データで見る世界の動向、最新の国際的な取り組み
-
動物実験


元実験チンパンジーを支える支援と歴史|サンクチュアリプロジェクトと熊本サンクチュアリ
-
動物実験


国内外で進む「実験動物リホーミング」の実態と課題
-
動物実験


実験用サルは増えるのか減るのか|2025〜2035年の世界予測
-
動物実験


新日本科学の実験施設問題|米国サル38頭死亡と告発の全記録
-
動物実験


動物実験における研究不正|信頼を失う構造とは
-
動物実験


実験動物のリホーミングとは何か|日本と海外の違い
-
動物実験


実験用イヌの現実|日本で何が行われているのか
-
動物実験


SCARDAと「100日ミッション」|ワクチン開発の裏で進む動物実験の現実
参考資料
・実験動物取扱いの実態に関する調査(環境省・令和5年度)
・実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準、 基準についての2017年解説はこちら

