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アニマルウェルフェアの問題点と限界【2025年版】経済・環境・技術から再考

檻の中の豚
目次

経済効率・生産性の視点

アニマルウェルフェアを改善するにはコストがかかります。広い飼育スペース、モニタリング設備、ストール廃止などを導入するには資本投資が必要で、中小農家や価格競争力を重視する生産者にとって負担となる可能性があります。
生産コストが上がると、最終的には肉・卵などの価格にも影響が及ぶ可能性があります。消費者が価格上昇を受け入れない場合、需要が落ちる懸念もあります。
このため、「動物福祉の向上=コスト増 → 価格転嫁 → 消費低下または格差拡大」という構造的なリスクが生じる可能性があります(1)。

技術・管理の視点


テクノロジー(AI、モニタリング技術、スマート畜産など)を用いて動物福祉を改善するアプローチもありますが、こうした技術を導入できる農場とできない農場で格差が広がる可能性があります。

また技術導入に依存しすぎると、畜産の大量生産や淘汰といった構造自体は変わらず、「効率的に福祉を管理する」だけにとどまるという批判もあります(2)。

精密畜産(Precision Livestock Farming, PLF)では、AIやカメラによるモニタリング研究が進んでいますが、公開データセットには限界があると指摘されています(3)。

環境・気候変動の視点

動物福祉を改善しても、畜産業が温室効果ガス排出や資源消費などの環境負荷の大きな源であることに変わりはありません。そのため、「動物福祉を高めるだけでは不十分で、畜産量そのものの見直しや代替タンパク質への移行が必要」とする意見もあります。

福祉改善により動物がより長く健康に生きるようになると、飼料や水などの資源消費量が増える可能性もあり、これが持続可能性とのトレードオフになることがあります(4)。

家畜福祉改善だけでは根本的な構造問題に不十分、という課題に対する国際的な検討・取り組み

「大量生産構造」や「効率化のための淘汰」といった根本的な構造を変えるためには、単に福祉基準を引き上げるだけでは不十分で、制度や政策、市場全体の仕組みまで変えていく必要があります。以下に、国際的に議論・実施されている主なアプローチを紹介します。

  • EU における規制の見直し
    EUは長年のアニマルウェルフェア関連規制(飼養、屠畜、表示など)の大幅な見直しを、2030年代に向けて進めています。科学的知見をより反映した新基準の導入が検討されており、家畜1頭当たりの飼養空間や運動可能面積の強化などが提案されています(5)。

    また、EU内の規制強化だけではなく、輸入畜産品に対しても同等の基準を求める方針が議論されており、国際的な供給チェーンにも大きな影響を与える可能性があります(5)。
  • EU の「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」
    EUはこの持続可能な食料システム戦略の中で、アニマルウェルフェアを重要な要素として位置づけています。
    将来的にはすべての家畜種を対象とした「動物福祉ラベル」の導入が提案されており、消費者が福祉に配慮した製品を選びやすくなるよう制度設計が進められています(5)。

    これにより、生産者側が高い福祉基準を導入するインセンティブが強まり、制度的な後押しとなっています。
  • 共通農業政策(CAP)での支援
    EUの将来共通農業政策(CAP)では、アニマルウェルフェアを含む持続可能性指標を評価し、優れた取り組みを報奨する「ベンチマーク制度」や「インセンティブ支払い」の導入が提案されています(6)。

    具体的には、広い飼育スペースやストール廃止といった高福祉管理を導入した生産者に対して、助成金や報酬を支払う仕組みが検討されています(6)。

代替タンパク質、消費者行動変化、政策転換を支える国内外の具体的な取り組み

  • 代替タンパク質技術の支援
    日本:PwC Japan の調査によると、日本では細胞農業(培養肉)などの代替タンパク質技術開発が進んでいるものの、法整備や規制、消費者認知が課題とされています(7)。

    研究支援:日本獣医生命科学大学などでは、「日本型アニマルウェルフェア畜産フードシステムの国際競争力」をテーマとした研究(KAKENプロジェクト)が進められてきました(8)。

    欧米:細胞農業や植物由来ミートに対して、技術開発支援、公的助成、スタートアップ支援、規制緩和などが積極的に進められています(7)。
  • 消費者行動支援・情報提供
    ラベル制度:EUが検討するAWラベル制度により、消費者が高福祉製品を選びやすくなり、市場の選好変化を通じて生産者の行動を変えるインセンティブが生まれます(5)。

    教育・啓発:環境・健康・福祉についての理解を深めるため、学校教育や公共キャンペーンで食肉の環境コストや倫理的側面を伝える取り組みがあります(4)。

    価格支援:高福祉肉や代替肉は価格が高いため、政府が補助金や価格支援を行い、エシカルな食材へのアクセス格差を是正する政策も検討されています(6,7)。
  • 総合的な政策枠組み
    EU(CAP改革):アニマルウェルフェアを持続可能性指標に組み込み、福祉改善に取り組む生産者を制度的に支援する方向性が示されています(6)。
    国際貿易政策:輸入品にも福祉基準を求めることで、国際市場全体に高福祉基準を促すアプローチが進められています(5)。

参照リスト

  1. 家畜のアニマルウェルフェア関係法令見直しの影響評価とコスト — 欧州委員会(Revision of EU animal-welfare legislation)
    https://food.ec.europa.eu/animals/animal-welfare/evaluations-and-impact-assessment/revision-eu-animal-welfare-legislation_en (Food Safety)
  2. 有限の技術アクセスと格差:PLF 技術導入の社会的課題 — “AI-Powered Cow Detection in Complex Farm Environments” (arXiv)
    https://arxiv.org/abs/2501.02080 (arXiv)
  3. 公開コンピュータービジョン データセットの限界:Precision Livestock Farming における課題 — “Public Computer Vision Datasets for Precision Livestock Farming: A Systematic Survey”
    https://arxiv.org/abs/2406.10628 (arXiv)
  4. 畜産業の環境負荷と動物福祉の持続可能性トレードオフ — FAO 報告など(例示として、FAO 気候変動レポート)
    http://www.fao.org/3/i3437e/i3437e.pdf (Food Safety)
  5. EU におけるアニマルウェルフェア規制の見直し・Farm to Fork 戦略・公開相談 — 欧州委員会/欧州議会
  6. CAP(共通農業政策)におけるアニマルウェルフェア支援制度(補助金・エコスキーム) — 欧州委員会
    https://agriculture.ec.europa.eu/common-agricultural-policy/income-support/eco-schemes_en
  7. 日本における代替タンパク質技術支援:PwC Japan レポート “Transformation and Alternatives on the Dining Table”
    https://www.pwc.com/jp/en/knowledge/thoughtleadership/assets/pdf/transformation-and-alternatives-on-the-dining-table-nature-positive-and-the-food-value-chain.pdf
  8. 日本のアニマルウェルフェア畜産システム研究:KAKEN プロジェクト報告書
    https://kaken.nii.ac.jp/file/KAKENHI-PROJECT-15K07624/15K07624seika.pdf
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