農林水産省が公表した「最新の畜産・酪農をめぐる情勢」から、需給動向や一人当たり消費量に関する記述を中心に整理し、日本の畜産・酪農が現在どのような局面にあるのかを見ていきます。
本記事では、単なる数値の羅列ではなく、「なぜこのような状況になっているのか」「この構造が動物に何をもたらしているのか」という点にも目を向けます。
酪農:需要と生産のミスマッチが続く構造
乳製品・生乳需給の現状
令和6年度の牛乳・乳製品の自給率は、国内の生乳生産量が増加したにもかかわらず、チーズなど乳製品の輸入量が増えたことにより、前年度から横ばいで推移しています。
国内で生乳が生産されていても、加工・消費の構造上、輸入品への依存が続いている点が特徴的です。
生乳需給を見ると、新型コロナウイルス感染拡大前までは、生産量の減少によって需給はひっ迫していました。しかし令和2年度以降、バター需要が好調である一方、脱脂粉乳の需要はヨーグルト消費の減少などにより低迷し、需給のアンバランスが顕在化しました。
その結果、脱脂粉乳の在庫が積み上がるという問題が発生しています。
在庫低減対策により一定の改善は見られるものの、需要不足は当面続くとされ、全国的な協調対策がなければ再び在庫が積み上がる状況にあります。
乳製品の一人当たり消費量の変化
乳製品の一人当たり消費量は、食生活の多様化を背景に、長期的にはチーズや生クリームを中心に拡大してきました。しかし、令和元年度以降は外食需要の減少により増加傾向が一服しています。
さらに令和4年度以降は、国際相場の上昇や円安による輸入原料価格の高騰を背景に、価格上昇や容量変更が相次ぎ、消費量は概ね減少傾向に転じています。
牛肉:消費減少と国内生産回復のねじれ
牛肉の消費量は、かつて外食需要の拡大により増加し、平成30年度にはBSE発生前の水準まで回復しました。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響や輸入量の減少により、令和2年度以降は5年連続で減少しています。
令和6年度は、物価上昇や生活防衛意識の高まり、円安の影響もあり、84.2万トンとなっています。
一方、国内生産量は、畜産クラスター事業などの取組により平成29年度以降増加傾向にあり、令和6年度は35.3万トンと前年を上回りました。
牛肉の自給率は重量ベースで42%となっています。
豚肉・鶏肉・鶏卵:増え続ける「安定供給」の影
豚肉
豚肉は、BSEや高病原性鳥インフルエンザ発生時の代替需要を背景に消費が拡大してきました。平成29年度以降は輸入量の増加により、消費量は180万トン超で推移し、令和6年度は185万トンとなっています。
国内生産量も増加傾向で、令和6年度は89.5万トンです。自給率は48%となっています。
鶏肉
鶏肉は、健康志向の高まりを背景に消費量が増加しています。生産量も需要の堅調さを反映し、毎年過去最高を更新しています。
輸入量は国内消費量の3~4割程度で、主な輸入先はブラジル、タイ、中国です。
鶏卵
鶏卵の消費量は平成29年度から令和元年度にかけて増加しましたが、令和2年度以降はコロナ禍による需要減少と、高病原性鳥インフルエンザの記録的発生による供給減少により低下しています。
生産量も同様に減少傾向で、輸入量は消費量の約4%にとどまっていますが、その約9割は加工原料用の粉卵です。
以上が需給動向の概要です。
動物福祉の視点から見た需給構造の問題
これらの需給データを俯瞰すると、牛肉は消費が減少する一方で国産生産は増加し、豚肉や鶏肉は高い消費水準を維持、乳製品は価格要因によって消費が頭打ちになっているという構図が浮かび上がります。
農林水産省の資料は、こうした状況を主に自給率や価格、在庫といった経済的指標から整理しています。
しかし、動物福祉の観点から見ますと、議論の軸は「いかに効率的に、安定的に供給するか」に強く偏っているように見受けられます。
飼育密度、輸送時のストレス、屠殺方法、母豚・母牛・採卵鶏の飼養環境といった、動物自身の生活の質(QOL)に直接関わる指標は、需給資料の中ではほとんど扱われていません。
また、輸入肉・卵・乳製品への依存が続いていることは、海外におけるより低い動物福祉基準や集約的生産に支えられた「見えないコスト」を、国内の消費の中に組み込んでいることを意味します。
一方で、国産であれば自動的に動物福祉水準が高いとは言えず、むしろ生産の集約化・大規模化が進む中で、国内畜産においても福祉リスクが高まっている可能性があります。
これまで見てきたように、消費の変動や価格調整、生産調整の結果として、動物は常に「調整弁」として扱われてきました。
需要が伸び悩めば価格が下がり、生産調整が行われ、感染症が発生すれば大量殺処分が繰り返されます。
需給の数字の背後には、こうした動物の犠牲が構造的に組み込まれていることを、私たちは直視する必要があります。
今後は、自給率や価格といった従来の指標に加え、「ケージフリー比率」「放牧・粗放飼育の割合」「屠殺前の休息時間」など、動物福祉に関する具体的な指標を需給資料の中に組み込んでいくことが求められます。
日本の畜産政策もまた、「量と効率」を中心とした枠組みから、「命の扱いを含めた持続可能性」へと転換していく必要があるのではないでしょうか。
おわりに
需給や一人当たり消費量のデータは、中立的な統計に見えます。しかし、その変動は、人の消費行動だけでなく、命ある動物の生産・管理のあり方を大きく左右しています。
数字を知ることは、畜産・酪農を「支える」だけでなく、「問い直す」ための第一歩でもあるのではないでしょうか。
参照資料
*1 「最新の畜産・酪農をめぐる情勢」農林水産省
https://www.maff.go.jp/j/chikusan/kikaku/lin/l_hosin/attach/pdf/index-829.pdf

