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世界のチンパンジーサンクチュアリ最新事情|研究利用から引退後の「余生の家」まで

世界のチンパンジーサンクチュアリの最新状況として、特に「研究・実験など人間利用からの引退先」として重要な施設を中心に紹介します(2025年12月時点)。(*1)


目次

チンパンジーサンクチュアリが必要とされる理由|研究利用の歴史と福祉の課題

チンパンジーはヒトと遺伝的に近いことから、かつては医薬品・ワクチン・宇宙開発などさまざまな研究に使われてきました。(*2) 一方で、認知能力が高く長寿であることから、動物福祉の観点で「侵襲的研究の対象としてはあまりに負担が大きい」という批判が強まり、欧米では段階的に研究利用が縮小・終了されてきました。(*3)

アメリカでは2015年にNIH(米国立衛生研究所)がチンパンジーの侵襲的研究を終了し、所有・支援していた約300頭のチンパンジーを連邦指定サンクチュアリに「引退」させる方針を決定しました。(*4) その行き先となっているのが、ルイジアナ州の「Chimp Haven」をはじめとしたサンクチュアリであり、ここには長年研究に使われてきたチンパンジーたちが新しい生活を始めています。(*5)


アメリカのチンパンジーサンクチュアリ|研究チンパンジーの引退と受け入れ体制

Chimp Havenとは?|世界最大の研究チンパンジー引退サンクチュアリ

概要
Chimp Haven は米国ルイジアナ州シュリーブポート近郊にある、約200エーカー(約80ヘクタール)の森林に囲まれたチンパンジー専用サンクチュアリで、「世界最大規模のチンパンジーサンクチュアリ」と紹介されています。(*5)(*6) ここにはNIHが所有・支援していた「元・研究チンパンジー」が順次移送されており、2020年代には300頭以上が引退生活を送っていると報じられています。(*4)(*6)

NIHは2015年にチンパンジー研究の終了を発表し、ニューメキシコ州のAlamogordo Primate Facilityやテキサス州の2つのバイオメディカル施設に残っていた元研究チンパンジーを、すべてChimp Havenに移送する計画を立てました。(*4) 2024〜2025年には、ニューメキシコの最後のグループを含む移送が報じられ、「すべてのNIHチンパンジーがサンクチュアリでの余生を送る」という長年の目標が現実に近づいています。(*4)(*7)

特徴
Chimp Haven の施設は、広い森林ハビタットとオープンエアのプレイエリア、健康上の理由で大きな群れに入れない個体向けのパティオなどから構成され、チンパンジーが自分で移動先を選んだり、木登りや探索ができる環境づくりが行われています。(*6)(*8) 多数の高齢個体がいるため、専門の獣医とケアスタッフによる医療・介護体制も重視されています。(*6)

Save the Chimpsの特徴|Coulston財団から266頭を救出した米国最大級施設

概要
Save the Chimps はフロリダ州フォートピアース近郊にある大規模サンクチュアリで、アメリカ空軍や民間研究施設から引退したチンパンジーの受け入れで知られています。(*9) 特に、かつて悪名高い民間研究施設とされた「Coulston Foundation」から、2002年に266頭ものチンパンジーを一括引き受けた歴史的なレスキューが大きな転機となりました。(*9)

その後、研究施設跡地でのケアを経て、これらのチンパンジーはフロリダの広い島状エリアに移送され、群れでの生活を送っています。(*9) Save the Chimps は2024年のインパクトレポートで、終生保護・医療・行動豊かさの提供に加え、施設の維持と保全に向けた2025年以降の目標を公表し、今後も長期的に受け入れ個体のケアを続けていく方針を示しています。(*10)

特徴
複数の人工島に橋がかかった構造で、チンパンジーの群れごとに独立したエリアが用意されており、草地や木々、登り場などを使って探索・遊び・社会的交流ができるよう設計されています。(*9) 多くの個体が研究・宇宙プロジェクト・軍事関連試験の経験を持つため、トラウマや健康問題へのケアも重視されています。(*9)

Project Chimpsとは?|New Iberia研究センターからの引退チンパンジー受け入れ施設

概要
Project Chimps は米国ジョージア州ブルーリッジ山地に位置する約236エーカーのサンクチュアリで、「研究用チンパンジーの引退」を専門に掲げた比較的新しい施設です。(*11) ここに暮らすチンパンジーの多くは、ルイジアナ大学の New Iberia Research Center という大規模バイオメディカル研究施設から来た個体であり、2014年の合意により約200頭以上を順次引退させる計画が立てられました。(*11)

2020年代にはすでに70頭以上が移送されており、今後も残りの個体を受け入れる方針が示されています。(*11) 2019年には、北米の霊長類サンクチュアリ連合である NAPSA の正式メンバーとなり、「研究チンパンジーのための新たな受け皿」として国際的な注目を集めています。(*12)

特徴
Project Chimps の森のハビタットは、チンパンジーが自然な行動(採食、木登り、群れでの移動など)を取り戻せるようデザインされています。(*11) 施設には屋内の寝室エリアと大きな屋外森林エリアがあり、個体の健康や社会関係に応じて、少人数グループから大きな群れまで柔軟に組み合わせる運用がなされています。(*11)


アフリカのチンパンジーサンクチュアリ|密猟・違法ペットからの保護とリハビリ

アフリカのサンクチュアリでは、実験動物というよりも「ブッシュミート(野生動物肉)や違法ペット、サーカス・観光業」から救出されたチンパンジーが多く保護されています。(*13) しかし、これらも広い意味で「人間活動に利用されたチンパンジー」であり、サンクチュアリは保護と同時に野生個体群の保全・教育の拠点として重要な役割を果たしています。(*13)

Tacugama Chimpanzee Sanctuaryとは?|シエラレオネ最大の保護施設と土地侵食問題

概要
Tacugama はシエラレオネ共和国の首都フリータウン近郊に位置し、西部地域保護区内の森の中にあるサンクチュアリです。(*14) 約30年にわたり西アフリカチンパンジーを保護してきた施設で、密猟・ブッシュミート・ペット取引などから救出された孤児チンパンジーを100頭以上保護しているとされています。(*14)

2025年には違法な土地侵食と伐採への抗議として一時的に観光客の受け入れを停止し、「ここは観光地ではなく、レスキューされたチンパンジーのための孤児院である」という立場を改めて示しました。(*14) 非法伐採や土地利用の圧力が続く中、Tacugamaはシエラレオネでよく知られる観光地でありつつ、チンパンジー保全とコミュニティ支援の拠点になっています。(*14)

特徴

  • 森林エンクロージャーでの群れ飼育と、重症・幼齢個体の集中ケアエリアを併設。
  • 学校教育プログラムや地域住民への啓発を通じて、野生チンパンジーへの理解を促進。
  • 保全の政治的課題(違法開拓・土地の侵食(encroachment))に対して声を上げるNGOとしても機能しています。(*14)

Tchimpoungaとは?|ジェーン・グドール研究所が運営するアフリカ最大級サンクチュアリ

概要
Tchimpounga はコンゴ共和国のポワントノワール近郊にあるチンパンジーリハビリセンターで、ジェーン・グドール・インスティテュート(JGI)が運営するアフリカ最大級のチンパンジーサンクチュアリです。(*15) ここでは主に密猟や違法ペット取引から救出されたチンパンジーが保護されており、200頭以上の個体が終生飼育またはリハビリテーションを受けています。(*15)

JGIの報告では、Tchimpounga のチンパンジーたちは過去に展示・ショーなど「人間の娯楽のために利用されていた」個体も含んでおり、虐待や栄養失調から回復させる長期的なケアが必要だとされています。(*15)(*16)

特徴

  • 本土エリアと周辺の島嶼エリアを組み合わせ、チンパンジーがより自然に近い森林環境で生活できるようにしている。(*15)
  • 医療・行動ケアに加え、野生復帰が困難な個体のための終生保護を提供。
  • チンパンジーを「森林生態系のキーストーン種」として位置付け、保全教育を通じて地域の森林保護にも取り組んでいます。(*15)

NAPSAとは?|北米の霊長類サンクチュアリを束ねるネットワークの役割

北米では、個々のサンクチュアリだけでなく、それらを束ねるネットワークとして NAPSA(North American Primate Sanctuary Alliance)が重要な役割を果たしています。(*17) NAPSAはエンタメ・ペット・研究から引退した霊長類(チンパンジー、マカク、クモザルなど)を保護するサンクチュアリの連合で、メンバー施設にはChimp Haven、Save the Chimps、Project Chimps などが含まれています。(*17)(*12)

2025年の情報によれば、NAPSAの加盟施設は700頭以上の霊長類を保護しており、研究施設や動物園・サーカスからの個体引き取りを調整しつつ、ケアの質と福祉水準の標準化を進めています。(*17) NAPSAは政策提言や世論喚起も行っており、「研究や見世物に使われた霊長類は、適切なサンクチュアリでの余生が保障されるべきだ」という考え方の普及に貢献しています。(*17)


世界のチンパンジーサンクチュアリが示す変化|研究利用の終焉と福祉の未来

チンパンジーサンクチュアリの歴史をたどると、「実験や興行に使われた動物をどう扱うか」という社会の価値観が、この数十年で大きく変化してきたことが見えてきます。(*2)(*3) アメリカでは、かつては研究室や軍の施設で使われていたチンパンジーが、今では広い森のあるサンクチュアリで群れと共に暮らすようになりました。(*4)(*5)(*9) アフリカでも、密猟やペット取引で傷ついた個体を保護するサンクチュアリが、観光資源であると同時に「野生チンパンジーの守り手」として重要な役割を担っています。(*13)(*14)(*15)

一方で、Tacugamaのように違法な土地侵食や資金難に直面しているサンクチュアリもあり、保全と福祉を両立させるための支援はまだ十分とは言えません。(*14) サンクチュアリは「問題が起こった後の受け皿」であると同時に、研究や産業のあり方を問い直し、「そもそもどのような利用は許されるのか」「代替法やNAMsをどう広げるか」を考えるための鏡でもあります。(*3)(*4)(*17)

今後、チンパンジーを含む霊長類の実験利用がさらに減っていくとしても、すでに人間に利用されてきた動物たちが安心して暮らせる場所を確保し続けることは、動物福祉の観点から欠かせません。世界のサンクチュアリを支えることは、過去の利用に対する「責任の取り方」の一つでもあり、未来に向けて動物の苦痛を減らす社会への一歩でもあるのだと思います。(*3)(*5)(*10)(*15)


参照リスト

(*1)世界のチンパンジーサンクチュアリの現状を総覧するための概説。
Science.org “Former research chimps will move to sanctuary, after NIH reverses course” — NIHによる元研究チンパンジー移送計画と背景をまとめた記事。
https://www.science.org/content/article/former-research-chimps-will-move-sanctuary-after-nih-reverses-course

(*2)NIHを中心としたアメリカのチンパンジー研究見直しの流れ。
Science.org “Has U.S. biomedical research on chimpanzees come to an end?” — 米国におけるチンパンジー研究の終焉を論じた解説。
https://www.science.org/content/article/has-us-biomedical-research-chimpanzees-come-end

(*3)NIHによるチンパンジー研究終了の公式発表。
Nature “NIH to retire all research chimpanzees” — NIHが研究チンパンジー全頭の引退を決定したことを伝える記事。
https://www.nature.com/articles/nature.2015.18817

(*4)元研究チンパンジーの移送計画と施設の所在。
Science.org “Former research chimps will move to sanctuary, after NIH reverses course” — AlamogordoなどからChimp Havenへの移送詳細。
https://www.science.org/content/article/former-research-chimps-will-move-sanctuary-after-nih-reverses-course

(*5)Chimp Havenの概要と使命。
Chimp Haven “Chimp Haven – World’s Largest Chimpanzee Sanctuary” — トップページに施設規模と「元研究チンパンジー」の受け入れについての説明。
https://chimphaven.org

(*6)Chimp Havenの歴史と受け入れ頭数。
Chimp Haven “About Us” — 歴史年表とNIH研究終了後の受け入れ拡大についての記述。
https://chimphaven.org/about-us/

(*7)ニューメキシコからの移送に関する報道。
Red River Radio “Louisiana chimp sanctuary welcomes New Mexico facility primates” — Alamogordoからルイジアナへの移送を扱ったニュース。
https://www.redriverradio.org/news/2025-12-24/louisiana-chimp-sanctuary-welcomes-new-mexico-facility-primates

(*8)Chimp Havenの施設構成と環境。
Eastwood Ranch Foundation “Chimp Haven Sanctuary Spotlight” — 森林ハビタットやプレイヤードなど施設構成の詳細。
https://eastwoodranch.org/chimp-haven-sancturary-spotlight/

(*9)Save the Chimps の歴史とCoulston Foundationからのレスキュー。
Project R&R “Save the Chimps | Sanctuaries Chimpanzees” — 266頭のチンパンジー救出とフロリダへの移送について。
https://releasechimps.org/resources/sanctuary/save-the-chimps

(*10)Save the Chimps の最新インパクトレポート。
Save the Chimps “2024 Digital Impact Report: A Year of Compassion and 2025 Goals” — 2025年以降の運営方針と目標。
https://savethechimps.org/2024-impact-report2025-goals/

(*11)Project Chimps の概要とNew Iberia Research Centerからの引退。
Laro Travels “Project Chimps: From Research to Sanctuary Retirement” — 236エーカーの森と約200頭の研究チンパンジー受け入れ計画について。
https://www.larotravels.com/project-chimps-sanctuary/

(*12)Project Chimps のNAPSA加盟と役割。
Project Chimps “Project Chimps Earns Full Member Status in NAPSA” — NAPSA正式メンバーとなった経緯と目的。
https://projectchimps.org/project-chimps-earns-full-member-status-in-napsa/

(*13)アフリカにおけるチンパンジーサンクチュアリの背景。
Africa Geographic “Saving Sierra Leone’s chimpanzees – Tacugama Chimpanzee Sanctuary” — 密猟・ペット・保全の文脈からTacugamaの役割を解説。
https://africageographic.com/stories/saving-sierra-leones-chimpanzees-tacugama-chimpanzee-sanctuary/

(*14)Tacugamaの違法土地侵食問題と一時閉鎖。
Sky News “Famous chimpanzee sanctuary faces existential threat from illegal land grab” — 違法な土地侵食と観光一時停止の決断について。
https://news.sky.com/story/famous-chimpanzee-sanctuary-faces-existential-threat-from-illegal-land-grab-13378202

(*15)Tchimpounga サンクチュアリの概要。
Jane Goodall Institute UK “Tchimpounga Sanctuary | Support Wildlife Conservation” — チンパンジーリハビリセンターとしての活動説明。
https://www.janegoodall.org.uk/tchimpounga-sanctuary

(*16)Tchimpounga における搾取からの保護プロジェクト。
Jane Goodall Institute Italia “The Nando Peretti Foundation and the Jane Goodall Institute Italia together for the Tchimpounga Chimpanzee Rehabilitation Center” — 搾取からの保護プロジェクト概要。
http://win.janegoodall.it/html/jgi_english.html

(*17)NAPSA のメンバーサンクチュアリと保護頭数。
North American Primate Sanctuary Alliance “Member Sanctuaries” — 約700頭以上の霊長類(うち多くは元研究・エンタメ・ペット)を保護していることが示されているページ。
https://primatesanctuaries.org/about/member-sanctuaries/

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