― 日本・中国・アフリカの事実と現在の法規制を検証 ―
「中国では“猿の脳料理”がある」「アフリカでは今もサルが普通に食べられている」「日本でも昔はサルを食べていたらしい」――。
こんな話を、ネットや本、映像作品などで目にした人も多いのではないでしょうか。
でも、どこまでが事実で、どこからが誤解や脚色なのかは、意外と整理されていません。
この記事では、信頼できる文献・報道・法律資料にあたって、
- 本当にサルは食べられてきたのか
- どの国で、いつ、どのように認められていた(あるいは禁じられてきた)のか
- 「猿の脳料理」は事実なのか
を、できるだけ分かりやすくまとめました。
日本:サルは食文化だったの?
結論:日本で「サルの脳を料理として食べる文化」は確認されていません
日本で見つかるのは、「料理」ではなく「薬」としての使用例です。
猿頭霜(えんとうそう)という民間薬
国立国会図書館や日本モンキーセンターなどの資料によると、江戸時代から昭和初期にかけて、サルの頭部(脳を含むとされる)を黒焼きにして粉砕した「猿頭霜」という薬が、てんかんやひきつけの治療に使われていました(*1)(*2)。
研究論文の聞き取り記録では、昭和20年代ごろまで、実際に作っていたという証言も紹介されています(*3)。
つまり日本では、
「サルを食材として楽しむ文化」ではなく、
「病気を治すための民間療法」として使われていた、と理解するのが妥当です。
中国:「猿の脳料理」は本当にあった?
結論:「猿の脳料理」が正式な料理として存在した証拠はありません
「生きた猿の頭を割り、脳をすくって食べる」という話は、映画やフィクションで広まった都市伝説的な話です。しかし、中国の料理史・研究論文・公文書などを調べても、そうした料理が実在したという確実な証拠は見つかっていません(*4)(*5)。
実在したのは「野味(イエウェイ)」市場
中国ではかつて、野生動物を食べる文化(野味)が一部地域に存在しました。
サルが売られていた記録もあり、“猿肉を食べた”例自体は事実です(*6)。
ただし、それは
- 日常食
- 伝統料理
- 一般庶民の習慣
ではなく、珍味・接待・富裕層向けという性格が強いものでした。
現在:中国ではサルは「食べてはいけない」
2020年、新型コロナをきっかけに、中国政府は陸生野生動物の食用を原則禁止しました。(家禽・家畜は対象外)(*7)。
いまは、
- 捕獲する
- 売る
- 食べる
いずれも違法です。
漢方・研究を理由にした“例外”は残っていますが、食用として認められているわけではありません(*8)。
アフリカ:今もサルは食べられている?
結論:法律では違法、現地では密猟が残っている
アフリカでも、「サルを食べる文化が残っている」と言われることがあります。
これは、一部は事実、しかし現在は違法という整理になります。
ブッシュミートという文脈
一部地域では、野生動物の肉(ブッシュミート)を食べる習慣があり、霊長類が対象になることもあります(*9)。
しかし現時点で、大型類人猿(ゴリラ・チンパンジーなど)は、すべての生息国で「完全保護種」です(*10)。
国別の法制度(抜粋)
| 国 | 法制度のポイント |
|---|---|
| カメルーン | ゴリラ・チンパンジーは全面保護。狩猟・所持・販売は違法(*11) |
| ナイジェリア | 2025年から絶滅危惧種の消費を犯罪として明文化(*12) |
| コンゴ民主共和国 | 類人猿の狩猟・販売は禁止(*13) |
それでも密猟が残る理由
取り締まりの弱さ、貧困、都市部の需要などが重なり、違法市場は今もゼロではありません(*14)。
「食べられている」=「認められている」ではなく、
「違法行為が続いている」というのが正確です。
なぜ誤解が広まるのか
オリエンタリズムという構造
「中国やアフリカ=野蛮」という見方は、19世紀以降の西洋報道の影響を強く受けています(*5)。
強烈な残酷表現やセンセーショナルな描写ほど注目されやすく、事実より“怖い物語”の方が拡散されやすい、というメディアの性質も関係しています。
人は「体験談」に弱い
- 一人称
- 細かな描写
- 感情的な結末
は真実味を帯びやすく、確認されていない話でも“実話のように”受け止められやすいのです。
整理すると、こうなります
地域別まとめ図
| 地域 | 実態 | いま |
|---|---|---|
| 日本 | 薬用利用 | 消滅 |
| 中国 | 野味市場 | 法的禁止 |
| アフリカ | 密猟事例 | 違法 |
年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 江戸期 | 日本で猿頭霜が使われる |
| 1933 | ロンドン条約でゴリラなど大型類人猿が国際的に保護対象となる |
| 2000年代 | 野味市場が問題化 |
| 2020 | 中国、野生動物食を禁止 |
| 2025 | ナイジェリア、消費罪を明文化 |
結論
- サルを食べた例は歴史的に存在
- しかし
「猿の脳料理」が文化だった証拠はない - 現在
中国もアフリカも法的に禁止
「完全な嘘」ではないが、「よく言われるイメージ」は事実とは違う。
これが、信頼できる資料をもとに整理した結論です。
参照リスト
- 民間伝承薬「猿頭霜」|国立国会図書館
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000325493 - 猿頭霜とは|日本モンキーセンター
https://www.j-monkey.jp/research/enjiro/9_medicine.html - 日本の猿類利用史(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jwsc/11/1/11_85/_article/-char/ja/ - 猿脳|Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%8C%BF%E8%84%B3 - Sesos de mono|Wikipedia
https://es.wikipedia.org/wiki/Sesos_de_mono_(gastronom%C3%ADa) - ヘルプアニマルズ
https://www.all-creatures.org/ha/monkeybrain001.html - 中国の野生動物食禁止(NDL)
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11512843_po_02840107.pdf - Reuters 中国報道
https://jp.reuters.com/article/world/-idUSKBN22X0F0/ - CIFOR ブッシュミート
https://www.cifor-icraf.org - State of the Apes
https://www.stateoftheapes.com - カメルーン法全文
https://minepded.gov.cm/wp-content/uploads/2020/01/LAW-NO.9401-OF-20-JANUARY-1994-TO-LAY-DOWN-FORESTRY-WILDLIFE-AND-FISHERIES-REGULATION.pdf - Reuters ナイジェリア
https://www.reuters.com/business/environment/nigeria-impose-more-stringent-penalties-wildlife-traffickers-2025-10-29/ - DRC 自然保全法
https://www.ecolex.org/details/legislation/loi-n-14003-du-11-fevrier-2014-relative-a-la-conservation-de-la-nature-lex-faoc140376/ - Mongabay
https://news.mongabay.com/2023/05/survival-and-economics-complicate-the-drcs-bushmeat-and-wild-animal-trade/

