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新日本科学の実験施設問題|米国サル38頭死亡と告発の全記録

新日本科学の実験施設問題|米国サル38頭死亡と告発の全記録

新日本科学の米国法人SNBL USAでは、2010〜2016年に霊長類38頭が死亡し、米農務省が動物福祉法違反で公式告発しました。日本国内でもビーグル犬をめぐる内部告発が報じられています。

罰金処分と事業譲渡という経営判断を経て、動物福祉は本当に改善されたのか。本記事では一次資料と報道をもとに検証します。

目次

はじめに

新日本科学は、日本を代表するCRO(医薬品開発業務受託機関)として、製薬会社の開発業務を受託し、前臨床試験(非臨床試験)を担ってきました。一方で、同社の米国法人SNBL USAや日本国内施設をめぐって、動物福祉上の深刻な問題が国内外で報告されてきました。

決定的だったのは2016年、米国で米農務省(USDA)がSNBL USAを動物福祉法(Animal Welfare Act, AWA)違反として公式に告発し、霊長類38頭が死亡していた事実が公的文書として確定したことです*1。

これは単なる事故ではなく、複数年にわたる管理体制不備、職員訓練の欠如、適切な獣医ケアの不足といった、構造的な問題が重なった結果であることが、同年の主要報道で明らかにされました*2。


2010〜2016年:米国施設で何が起きていたのか

公式確認された「38頭の死亡」

2016年11月、米国の有力紙 Los Angeles Times は、SNBL USAのエバレット研究施設において、

2010年から2016年の間に、少なくとも38頭の霊長類が死亡していた

と報道しました*2。この事実は後にUSDAの告発状により公式に確認され、単なる「報道」ではなく、行政機関が認定した違反事実となりました*1。


輸送中の死亡事故:25頭が犠牲に

特に重大だったのが、2013年に発生した霊長類輸送時の事故です。

約840頭のマカクザルが東南アジアから米国に輸送される途中、25頭が脱水症状や低血糖による多臓器不全で死亡、もしくは安楽死処置を受けました*2。

獣医師は、到着時のサルについて、

著しく衰弱し、脱水状態にあり、適切なケアが施されていなかった

と報告しています。しかし、輸送中・到着時ともに十分な治療は行われず、結果として多数の死に至りました*2。


実験手技中の死亡と訓練不足

そのほか、肝生検などの侵襲的手技を受けたサルが相次いで死亡した事例も確認されています。

地元紙 The Columbian は、訓練を十分に受けていない職員が手技を担当し、出血多量によりサルが死亡した例を複数報告しています*3。

これらの事例から浮かび上がるのは、単発の人的ミスではなく、訓練・監督・安全管理が体系的に欠落していた可能性です。


2016年:USDAによる公式告発

「故意の違反(willful)」という司法的表現

2016年9月、USDA動植物検疫局(APHIS)は、SNBL USAに対して正式な告発状を提出しました*1。

告発状では、

  • 適切な獣医ケアの不履行
  • 監督体制の欠如
  • 訓練不足のまま実験に従事させていた事実
  • 安全管理義務の違反

などが詳細に列挙され、違反の多くが「willful(故意)」と表現されました。
これは、単なる過失ではなく、違法状態を認識した上で放置していたと行政が評価したことを意味します。


18万5,000ドルの罰金で和解

同年12月、SNBL USAはUSDAと和解し、185,000ドルの罰金支払いにより行政手続きは終結しました*4。

しかし、Animal Welfare Institute(AWI)は、

被害の重大性に照らして、到底抑止力とは言えない金額

と厳しく批判しました*5。

また、SNBL USAは過去にもAWA違反で処分を受けており、今回が初犯ではなかったことも告発状で明らかになっています*1。


日本国内での内部告発:鹿児島本社のビーグル問題

2012年、日本国内でも新日本科学の実験施設をめぐる告発報道がありました。

調査報道メディア HUNTER は、複数の元従業員の証言をもとに、

  • ビーグル犬の不適切な処分
  • 実験記録の改ざん疑惑
  • 管理体制の重大な問題

について報道しました*6。

ところがこの報道後、

  • 行政処分
  • 刑事事件化
  • 検証委員会報告書

といった公的対応は確認されていません*7。

内部告発があっても、検証されず、制度的改善につながらない構造が浮き彫りとなりました。


事業再編という「幕引き」

米国事業のAltasciencesへの譲渡

2018年、新日本科学はSNBL USAの非臨床事業を分社化し、その事業はAltasciencesグループへ営業譲渡されました*8。

これにより、新日本科学は名義上、米国の動物実験事業から撤退した形となります。


「改善されたのか?」という根本的疑問

しかし、

  • 飼育・輸送体制の改善
  • 死亡率の低下
  • 第三者監査の実施
  • 動物福祉指標の公開

といった点について、詳細な第三者報告書や公式データは確認できません*7。

「事業譲渡」によって組織名は変わりましたが、実態が改善されたかどうかを検証できる材料は、ほとんど公開されていないのが現実です。


この問題が問いかける制度の限界

米国ですら「罰則が弱い」

命に関わる大規模違反があっても、

  • 施設閉鎖なし
  • 免許剥奪なし
  • 罰金は比較的低額

という結果にとどまりました*5。

罰金が「経費扱い」される構造の中では、根本的改善は起きにくいと言わざるを得ません。


日本はさらに不透明

日本では、

  • 監査結果が非公開
  • 処分履歴も不明確
  • 市民が検証できない

という「ブラックボックス」体制が続いています。


本当に必要な改革とは

動物実験の透明性と福祉を担保するには、以下が不可欠です。

  1. 重大違反時の営業停止・免許取消
  2. 死亡数・侵襲度の公開義務
  3. 第三者監査制度の導入
  4. 動物実験削減目標の法定化
  5. 内部告発者保護制度

制度があるだけではなく、
運用されなければ意味がありません


おわりに

新日本科学の事例は、単なる企業不祥事ではありません。

  • 制度があっても機能しないこと
  • 透明性のない改善が信用されないこと
  • 命が数値として扱われる産業構造

こうした問題を一挙に象徴する事件です。

企業と行政の説明責任が、今あらためて问われています。

了解しました。では、前回の文章の末尾に、「実験用サルの供給不足問題と世界の動き」に関する段落を 通し番号 9 〜 として追記する形で整えます。


追記:実験用サルの供給と減少のジレンマ

新日本科学が語る“サル不足”の現状

近年、新日本科学 は「実験用サルが国内では不足している」という主張を繰り返しています。報道によれば、同社は鹿児島県指宿市に新たなサル繁殖・飼育施設を建設中で、2026年までにカニクイザルを含む非ヒト霊長類(NHP)の大規模な飼育体制(数千匹規模)を整備する計画を打ち出しています。この背景には、世界的な輸入制限や需給ひっ迫、さらにワクチンや新薬の前臨床需要の増大などがあるとされています

こうした動きは、医薬品の前臨床試験の安定供給を維持したい製薬業界およびCROにとって、サルの安定供給確保が現実的なボトルネックとなっている事情を反映しています。


世界は「サルを減らす」方向へ — 代替法の台頭

しかし一方で、世界の多くの国や研究機関、規制当局は、実験動物の使用を減らす方向への転換を進めています。とりわけ霊長類(サルなど)への依存を見直し、倫理性と科学性を両立させる動きが強まっています。

具体的には、ヒト細胞を使った in vitro 試験、オルガノイド、臓器チップ、コンピューターモデル(イン シリコ試験)など、動物を用いない/用いる数を減らす 代替技術 (non-animal methods, NAMs) の研究と普及が加速しています。また、欧州を中心に、動物実験の削減・廃止を促進する政策や法令改正も進んでいます

このように、科学と倫理の両立を目指す国際的な流れの中で、実験用サルへの依存は徐々に減らされつつあります。


相反する力 — 供給確保 vs. 使用削減のジレンマ

このように、「サルを確保し試験を回す必要性」と「サル使用を縮減し代替法を用いるべき倫理的要請」という 二つの相反する力 が、現在の医薬品開発/CRO業界を挟んで激しく対立しています。

  • サル需要の急増と供給ひっ迫 → 繁殖施設の拡充
  • 代替技術の進展と倫理・社会的要請 → サル使用の削減

この矛盾をどう乗り越えるかが、今後の薬の安全性評価、研究倫理、そして動物福祉の行方を左右する鍵となります。


未来の「第三の道」を模索する必要性

私個人としては、たとえサルの供給体制を整備する現実的必要性があるとしても、同時に 代替法のさらなる科学的整備使用の最小化 を並行して進めることが、今後の責任ある研究のあり方だと考えます。

つまり、ただ「サルを増やす」のではなく、

  • 代替方法を標準化し、必要最小限の動物使用にとどめる
  • 動物福祉・ケアの質を厳格に保証する
  • 透明性を高め、社会に対する説明責任を果たす

という 「第三の道」 を、産学官・市民社会を含めて模索するべきだと思います。


この問題は社会全体に問われている

新日本科学のような企業の動向や主張だけを見て判断すべきではありません。動物実験のあり方、動物福祉、科学の進歩、そして倫理・社会的合意のすべてをふまえた議論が必要です。

サルの「供給確保」も、「使用削減」も、それぞれ一面の正しさを持つ。しかし、命の扱いを巡る問題は、「どちらを優先するか」だけでは語れず、 どう折り合いをつけ、未来を設計するか が問われています。

読者のみなさまにおかれては、どうかこの問題に関心を持ち、考えを深めていただければと思います。



参照リスト

*1 USDA(米農務省)「Complaint against SNBL USA」(2016)
https://animals-peace.net/animalexperiments/snbl-complaint-sep26

*2 Los Angeles Times
“Dozens of lab monkeys were killed due to failed experiments, negligence at Everett research lab”(2016年11月1日)
https://www.latimes.com/nation/la-na-lab-monkey-deaths-20161101-story.html

*3 The Columbian
“Everett lab accused in primate deaths”(2016年)
https://www.columbian.com/news/2016/nov/01/everett-lab-accused-in-primate-deaths/

*4 Everett Herald
“Everett research lab fined $185,000 in deaths of 38 monkeys”
https://www.heraldnet.com/business/everett-research-lab-fined-185000-in-deaths-of-38-monkeys/

*5 Animal Welfare Institute
“Despite Serious Allegations, SNBL USA Dodges Significant Penalty from USDA”
https://awionline.org/press-releases/while-primates-suffer-research-labs-benefit-paltry-fines-lax-usda-oversight

*6 HUNTER
「医薬品動物実験企業に虐待・データ改ざんの疑い浮上」(2012)
https://news-hunter.org

*7 PEACE 命の搾取ではなく尊厳を
https://animals-peace.net/experiments/snbl-complaint-sep26-j.html

*8 新日本科学 有価証券報告書(米国非臨床事業の再編・譲渡)
https://pdf.irpocket.com/C2395/A0oF/jQga/SsYp.pdf

*9 新日本科学、サル繁殖施設拡充計画(薬事日報)
https://www.yakuji.co.jp/entry106364.html

*10 新日本科学「Bウイルスに関するお知らせ」(公式リリース)
https://snbl.com/news/b%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%99%E3%82%8B%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B/

*11 日経バイオテク「実験用サルの需給ひっ迫に関する記事」
https://nk.jiho.jp/article/185061

*12 新日本科学 有価証券報告書(EDINET)
https://disclosure2dl.edinet-fsa.go.jp/searchdocument/pdf/S1005BQI.pdf


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