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CRO、認証制度、そして「認証があっても起きている現実」
動物実験について語られる際には、「厳しいルールがある」「第三者認証を受けている」「倫理委員会が審査している」といった説明がしばしば用いられます。これらは一見すると、動物実験が十分に管理され、動物福祉が確保されているかのような印象を与えます。
しかし、制度や認証が存在することと、現場で動物の苦痛や事故が起きていないことは必ずしも一致しません。
本稿では、動物実験がどのような構造で行われているのか、特に製薬企業と CRO(Contract Research Organization:受託研究機関)の関係、認証制度の役割と限界、そして AAALAC 認証施設で実際に起きた動物福祉問題の事例を踏まえながら、動物実験施設の実態を整理します。
CROとは何か――動物実験を担う「外部委託」の構造
現在、製薬企業が行う非臨床試験(毒性試験、薬理試験など)の多くは、自社施設ではなく CRO と呼ばれる外部の受託研究機関に委託されています。
CRO は動物実験を含む各種試験を専門に請け負う組織であり、世界的に巨大な産業として発展してきました。
製薬企業がCROを利用する理由
- 高い専門性
- コスト効率
- 国際基準への対応
しかしこの構造は、実際に動物を扱う現場と、製薬企業の社会的説明責任との距離を広げるという問題も生みます。
動物実験の実務は CRO が担い、製薬企業は委託者として管理・監督にとどまるためです。
この構造自体は合法であり国際的にも一般的ですが、動物福祉上の問題が起きた際に、責任の所在や情報公開が曖昧になりやすいという課題があります。
動物実験を「管理している」とされる制度
動物実験には、法令、ガイドライン、倫理委員会、認証制度など、複数の管理仕組みがあります。
中でも国際的に重視されているのが AAALAC International による第三者認証です。
AAALAC 認証は、動物実験施設の飼育環境、管理体制、倫理審査の仕組みなどを総合的に評価し、一定の基準を満たした施設に与えられます。
評価の基礎となるのは、米国科学アカデミーが策定した Guide for the Care and Use of Laboratory Animals です。
AAALAC認証とは何か
AAALAC International は、動物実験施設の飼育環境や管理体制、倫理審査の仕組みを評価し、基準を満たした施設に認証を与える民間の非営利団体です。
ここで重要なのは、以下の点です。
- ✅ AAALAC 認証は 法的義務ではなく任意制度である
- ✅ 評価は 体制や仕組みを対象とし、日常業務を常時監視するものではない
認証制度の限界――「認証がある=問題がない」ではない
AAALAC の評価は、書類審査や定期的な現地訪問に基づいて行われますが、抜き打ち検査や日常業務の継続的監視は行われません。
また、評価の多くは施設側が提出する情報に依存します。
そのため、認証施設であっても、以下のような問題が起こり得ます。
- 職員の教育不足
- 慢性的な人手不足
- 苦痛評価の形骸化
- 内部告発がなければ表に出ない問題
AAALAC認証施設で実際に起きた動物福祉問題の事例
ここで重要なのは、これは「仮定」ではなく、AAALAC 認証施設で実際に動物福祉上の問題が公になった事例が複数存在するという事実です。
1.米国の霊長類研究施設における死亡事故
複数の米国霊長類研究施設では、AAALAC 認証を受けていたにもかかわらず、USDA の査察記録や報道により、死亡事故や管理不備が明らかになっています。
2.通路に放置されたサルの死亡
New Iberia Research Center では、サルが施設内の通路に取り残され、長時間発見されず死亡したと報じられています。
これは、制度上の認証と現場運用の乖離を象徴する事例です。
3.繰り返される法令違反と認証の併存
一部の研究機関では、AAALAC 認証を維持したまま、USDA の査察で複数の違反が指摘されています。
認証の存在が、違反の発生を防げなかった例です。
4.カリフォルニア大学デービス校(CNPRC)での多数死亡事故
California National Primate Research Center(CNPRC)は AAALAC 認証施設として知られていますが、USDA の査察記録により、霊長類がケージ内で長時間苦しみながら死亡した事故が複数回発生していたことが明らかになりました。
指摘された問題
- 異常の見逃し
- 適切な獣医ケアの遅れ
- 同様の事故の繰り返し
5.ウィスコンシン大学霊長類研究施設での監督不全
University of Wisconsin–Madison の霊長類研究施設も AAALAC 認証を受けていましたが、USDA の査察では、
- 深刻な咬傷の未処置
- 病気や外傷の見逃し
- 監督体制の不備
などが繰り返し指摘されています。
AAALAC認証とUSDA違反が同時に存在し続ける構造的問題
米国では、AAALAC 認証を保持したまま USDA の違反を繰り返す施設は珍しくありません。
その背景には、以下のような制度的特徴があります。
- AAALAC が 自主的・非公開型の評価制度である
- 認証に 強制力がない
- 過去の違反があっても 認証が即時取り消しにならない
認証が「安全装置」として機能しなかったという現実
これらの事例が示すのは、次の点です。
- 認証は虐待や事故を未然に防ぐ保証ではない
- 認証があっても、現場の人員不足や慣れは防げない
- 外部からは「適切に管理されている」と見えても、内部では深刻な問題が起き得る
なぜ問題は繰り返されるのか
AAALAC 認証そのものが無意味というわけではありません。
しかし認証制度は「体制の整備」を評価するものであり、日常の運用や現場文化まで保証するものではありません。
さらに、以下の要因が重なり、問題が発覚しにくい構造が形成されています。
- CRO という外部委託構造
- 動物実験データの非公開性
- 企業秘密による情報遮断
- 内部告発者が不利益を被るリスク
日本の状況と見えにくさ
日本でも動物実験施設は、法令や指針に基づいて管理されていると説明されます。
しかし、第三者による実効的な監査や、市民が検証可能な情報公開は極めて限定的です。
そのため、外部から問題の有無を検証しにくい状況があります。
私たちが知っておくべきこと
「認証がある」「基準を守っている」という説明は、議論を終わらせるために使われることがあります。
しかし、実際の事例が示すように、認証や制度は万能ではありません。
必要なのは、次の視点です。
- 認証制度の限界を正しく理解すること
- 動物実験の実態について、より高い透明性を求めること
- CRO を含めたサプライチェーン全体に説明責任を求めること
動物実験施設は本当に管理されているのか

参照リスト
- AAALAC International – 概要 https://en.wikipedia.org/wiki/AAALAC_International
- Contract Research Organization(CRO) https://en.wikipedia.org/wiki/Contract_research_organization
- 製薬企業と CRO の関係(NCBI) https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK219558/
- Animal testing regulations https://en.wikipedia.org/wiki/Animal_testing_regulations
- Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(National Academies Press) https://nap.nationalacademies.org/catalog/5140/guide-for-the-care-and-use-of-laboratory-animals
- AAALAC Accreditation Program https://www.aaalac.org/accreditation-program/
- Animal Abuse Abundant in Spite of AAALAC Accreditation(AWI Quarterly) https://awionline.org/awi-quarterly/2012-spring/animal-abuse-abundant-spite-aaalac-accreditation
- Harvard Primate Center violations(The Scientist) https://www.the-scientist.com/harvard-fined-for-animal-welfare-violations-38227
- New Iberia Research Center monkey deaths(AWI Quarterly) https://awionline.org/awi-quarterly/2011-summer/forgotten-monkeys-die-primate-research-facility
- USDA Animal Welfare Act enforcement https://www.usda.gov/animals
- Whistleblower protection and animal research(Science) https://www.science.org/content/article/usda-now-only-partially-inspects-some-lab-animal-facilities-internal-documents-reveal
- 日本の動物実験指針(環境省) https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/
- 動物実験と社会的説明責任(SAGE Journals) https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/0023677218765581
- Deaths and neglect at UC Davis primate center(Humane World) https://www.humaneworld.org/en/blog/animal-welfare-violations-university-primate-center
- Repeated animal welfare violations at University of Wisconsin research labs(Humane World) https://www.humaneworld.org/en/blog/animal-welfare-violations-university-research
- AAALAC accreditation and USDA violations occurring simultaneously(Speaking of Research) https://speakingofresearch.com/facts/animal-research-regulation/
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